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思うこと375

 私が『返校 DETENTION』を知ったのは、同じ台湾のゲームメーカー「Red Candle Games」が作った『還願 DEVOTION』(2019年)のゲーム実況を見ていたからだ。
 ちなみにホラーゲーム実況を視聴することは、ほとんど私の趣味と言ってもいいくらいで、まだまだ欧米のゲームが量的に優っているような気がする中で(あ、偏見です)、こうしてアジアのホラーを拝めるなんてなんという嬉しさ。

 で、『還願』は色々と政治的な問題で配信停止になったりして、なんとも物議を醸していたホラーゲームなのだが、これが見てみたらめちゃくちゃに面白く、ちょっとエグいシーンもあるが、新興宗教によって狂わされていく父親の姿を追っていくストーリーがとても良かった。
 あと、1980年代の台湾を舞台にしているということで、なんとなくレトロな感じもありつつ、なにより家の中や音楽など、とにかく「これでもかー!!」という台湾カルチャー感に圧倒され、本当に、本当に最高。(私はそもそも子供の頃からPSのゲーム『クーロンズゲート』を気がおかしくなるくらい愛しており、中華文化圏の漢字ばっかりの空間、独特の赤、扉の形、宗教、文化、とにかくそういう雰囲気が昔から異様に大好き。)

 そんなわけである時『還願』のゲーム実況を見終わり、呆然としていると、同じチームが以前他にもホラーゲームを作っていると言うではないか!と、そこで知ったのが『返校』というわけ。
 『還願』に比べるとかなりシンプルな作りなのだが、なんとも言えない息詰まった感じと、冒頭で書いた白色テロ下の1960年代の古めかしくてちょっと恐ろしい雰囲気が素晴らしく、また、ストーリーも複雑そうでいて、実はかなりシンプルで、そして悲しい話。(悲しいけど、ラストはちょっと救われる、と思う。)
 いやあ、台湾のゲームむちゃくちゃいいなあ〜と思っていたらなんと現地で実写映画化するっていうし、早く日本でも公開されないかな〜〜と待っていること数年。

 ついに先日、『返校』をやっと観ることができました!ありがとう!!(誰に?)

 さて楽しみにしていた映画化ではあるが、どうも私の脳裏には「ゲームから実写って大丈夫?」という不安が少なからずあり、絶対観にいく!と決めた後も、やっぱりまだソワソワしていた。だって、ゲームがあんなに面白いのに、映画がいまいちだったら悲しいじゃないですか。

 しかし結果としては、かなり良かった!かなりゲームに忠実に再現している反面、やはり決まった尺の中で話をわかりやすく伝えるためにストーリーの変更などは要所要所に見られたが、むしろ何も知らない人が見てもある程度取っ付きやすいようになっていると思う。むろん、ストーリーの大枠はゲームと一緒。

 それと、ホラーと組み合わせて「白色テロ」の圧政を知るにはとても分かりやすく、長年台湾の中でさえタブーとされてきたこの時代の出来事を、今の私たちがある意味気軽に(語弊はあるが…)目にすることができるという点で、「白色テロ」に触れるにはちょうどいい映画なのではないかと思う。まあ、もちろんホラーが苦手だとキツいけども。(もちろんこれまた私の大好きな『牯嶺街少年殺人事件』を観るのもいいけど、あれは三時間もあるからネ!)

 (ラストシーンもほんの少しゲームと異なる点があったが、私はあれはあれで、映画版の締め方も良かったと思う。)

 で、せっかく今はSwitchがあるので、どうせならゲームも自分でやろう、と早速ダウンロード。ていうか、ゲーム実況を見た時の記憶が意外と薄くなっていた。(細かいことはほとんど覚えてなかったと知る。)

 そしてゲームも無事にクリアしたので、まさにスルメのごとく『返校』を色んな手段でしゃぶっている私だが、結果としてはやはり「自分でゲームをする」が一番作品を楽しめた気がする。(当たり前じゃね!?)やはり映画では乗せきれなかった細々としたシーンや、ゲームだからこそダイレクトに体感できる主人公ファン・レイシンの心模様など、やっぱり実際プレイするのがそりゃ一番ビシバシくる。

 ということで結局、どの媒体でも面白かったの一言になってしまうなんの意外性もない結果になってしまったけども、私は『返校』の良さは、政治的にシビアな問題を取り上げつつ、一人の少女の普遍的な苦悩を重ねて全てを内包するような、そういう絶妙なバランスがとても心地良いところだと思う。
 ことゲームで言えば、後半になるにつれファン・レイシンの内面が抽象化されて画面に展開されるんだけど、正直プレイヤーはちょっと困惑するかもだが、それがまた「イイ」んだなあ〜。

 ゲームはまた再プレイするのもありかな。ボリュームとしては毎日ちょっとずつやっても3日くらいあれば終わるし、謎解きもさほど難しくない。あと、怖いのは前半だけで、後半は結構落ち着いてプレイできたので助かった。

それにしてもこれからもこういう「アジア」な作品にどんどん出会いたいところ。


【白色テロ(はくしょくテロ)】

第二次世界大戦後の台湾で発生していた政治的弾圧のことで、国民党が反体制思想や共産主義を強烈に取り締まったため、多くの市民が犠牲になった。1947年の二・二八事件以降から1897年の戒厳令解除までの期間を言う。

エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)、そして今回の『返校』(ゲーム・2017年/映画・2019年)共に、白色テロ下の1960年前後の台湾を舞台にしている。

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