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「あの頃、文芸坐で」【8】田中登作品との出会い

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またまた、部屋の中を片付けていたら、当時の鑑賞リストが出てきた。ここから、もう少し詳しい内容がかけそうである。78年、浪人中で映画など見ている状況ではなかったが、このプログラムは9/5に「女教師」と「人妻集団暴行致死事件」を観に行った時のものらしい。

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コラムは、夏休みの帰郷のお話。それを映画に喩えてしまうのは、映画ファンの悪い癖であるかもしれない。ただ、当時、そんなに映画狂などいなかったし、テニスだスキーだと、ナンパな嗜好の学生が多かった時期である。映画を語るなど、「ただの暗い人」だったという記憶がある。それに比べると、今は、良い時代になったものである。映画ファンが趣味を持った恵まれた人にも見える。当時、今のような状況で「映画館が危機」などと言っても、そのまま潰されてしまったのではないかと思う…。

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文芸坐はベルイマン2 本立て、こういう作品自体を映画館で見る機会がなくなりましたね。そして、ミュージカル特集なのだが、プログラムにいわゆるMGMミュージカルは少ない。当時、その名シーンを集めた「ザッツ・エンターテインメント」が公開されヒットしたが、その元ネタを映画館で見れる機会はなかなかなかった。そう考えると、ビデオの普及した今というのは、本当に恵まれていると思うのです。そして、アル・パチーノの二本立てですが、彼の名前が「アル・パシーノ」になっていますな。そう、昔は、日本語表記が違っていたのです。とみに最近は言語の発音に近く表記するようになったので、こういうのも懐かしい限り。

文芸地下は、ミステリー、近松、独立プロ作品、橋浦方人とバラエティー豊か。言い換えれば、混沌という感じ。この中で、この前お亡くなりになった宮城まりこ監督「ねむの木の詩がきこえる」が上映されている。その前作「ねむの木の詩」とともに、私は観ていない。この機会にどこか、かけてくれる劇場はないでしょうか?障害者に関する情報はこの頃に比べれば多く、支援の声も多いが、まだまだ十分ではないと思います。そして、宮城さんがやられていたことはその原点的なこと。旬の時に旬の映画をかけられるような環境が欲しいと思います。シネコンの1スクリーンをそういう映画をかけ続けるスクリーンにしてもいいのだと思います。時代が変わるこの時に、全ての映画館にそういう様々な施策を期待しております。そう、永六輔主演の「春男の翔んだ空」も観たかったが見ていない映画の一本ですね。

オールナイトは、「好評番組をもう一度」という事で、よだれが出るプログラム。特に、最初のプログラムの中に、封印されている「ノストラダムスの大予言」が入っているのは、タイムマシンに乗って行って見たいと食指が伸びますな。

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そして、最後に付け足したのが、「第5回陽のあたらない名画祭」の投票用紙と、邦画の候補作品。この候補作品というのは、当時フィルムが現存していて上映可能だったものです。デジタル化の波の中で、フィルムをかけられる館も少なくなり、ここに記載されている中でもフィルムが現存しないものは多いでしょうね。この時代には新しい「青い性」(小平裕監督)、「地獄の天使・赤い爆音」(内藤誠監督)などは、今では映画館で見ることなど考えられない作品ですよね。この頃の東映作品でそういうのかなり多い気がします。

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そして、この日観た映画について。そう、この時が、私が田中登監督作品を観た最初でありました。ロマンポルノの中では巨匠であり、キネ旬ベストテンに入り続けていた田中登。77年に「女教師」78年に「人妻集団暴行致死事件」という二本の1時間半のロマンポルノにしては長尺のこの二本で、さらに作品に幅を広げて行ったと言っていい。ともに、レイプ映画である。今、こういう映画撮ると、なかなかうるさいみなさんが意見されると思う。だが、ロマンポルノの中ではレイプというのは一つのテーマであったのだ。男女の性の中で、強姦とは男の気持ちの爆発でもあり、受ける女の弱みでもある。私はレイプは犯罪だし、女性の権利は、より護られなければいけないとは思っているので、変な反論、投げないでくださいね。

そして、この2本はそのレイプ犯役の古尾谷雅人(当時の名義は古尾谷康雅)のデビュー作である。調べると、彼が自ら命を絶ったのは2003年だから、もう17年も前のことなのでまずは驚く。そして、この映画は、身体が大きいこともあり、彼の印象はすこぶる大きかった。もう少し、売る路線が変わっていれば、「太陽にほえろ」の刑事という方向性もあったのかもしれないが、役的には、ずーっとあまり爽やかなものがなかった印象の役者さんでしたね。私の好きな作品の「ヒポクラテスたち」でも、最後は狂ってしまう。そして、この二本とも、ロマンポルノの陰湿な凄みみたいなものを私に見せつけてきた。それは、浪人生にはちょっとやるせなくきつい印象だったかもしれないが、田中登という監督を私に印象付けた。もちろん、その後「色情㊙︎めす市場」「㊙︎女郎責め地獄」などに悶えたのは言うまでもない。そして、その後、学生になってからもロマンポルノ通いが続くきっかけがここにある気がする。

ロマンポルノの中でも神代辰巳とは違う方向から、当時の破滅的な男女の性を描いて行った田中作品だが、最近は、あまり話題に上らないもは少し寂しい気もする。後日、ご存命の時に監督に直接あってお話をさせていただいたところ「映画館は宝石箱だ」というお話が印象的であった。今、全国の映画館が窮地に立たされている。そんな中で、彼のこの言葉を思い出した。映画ファンは、みな同じ気持ちであろう。そう、映画館に何か輝きを求めて私たちは暗闇のスクリーンに向かうのである。

次回は79年に飛びます!




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