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「シノノメ色の週末」ラストシーンの東雲の画を描けたことで成立した青春劇

この映画を観ようと思ったのは岡崎紗絵が出ているからだ。昨年、今泉力哉監督の「mellow」のヒロイン役で彼女は光っていた。この間、ビデオで見返したのだが、ここでの彼女は本当に良い雰囲気なのを再確認した。その後、最近ではテレビでよく見る顔になっている。「アライブがん専門医のカルテ」「教場II」「ナイト・ドクター」「ごほうびごはん」などだ。ただ、どちらかというと、顔に似合わず気が強いような役が多いようで、少し私のイメージする彼女とは違う感じがしている。まあ、最近の「ごほうびごはん」はグルメドラマのせいもあるが、笑顔が素敵な演技をしている。そう、そういうのを期待して見に行った。

そして、監督を見たら、穐山茉由とある。そう、彼女の長編デビュー作「月極オトコトモダチ」は徳永えりが主演ということもあったが、結構好きな作品だった。ちょうど、この映画と同じような年頃の女性の男性感だとか、未来感みたいなものをうまく表現できている映画だと思ったからだ。そういう前提でこの映画を見れば、やはり、高校出てから10年、つまり28歳の女性たちをうまく描いている映画には仕上がっていた。

シノノメという言葉から東雲のことだろうとは思ったが、舞台になる廃校になったばかりの高校の名前は「篠の目女子高校」だった。なぜにこうしたのだろうか?まあ、東雲が読めない人が多ということなのかもしれないが、その辺りは、あまり勘繰らないことにしよう。

女子校の放送部で一緒だった三人が、10年ぶりに再会、そして誰もいない高校で週末に遊ぶ話である。三人ともそれなりに生活しているが、今に満足している訳ではない。本当にやりたいこともやれていない感じ。そんな鬱憤を晴らして、10年前にどこかに埋めたタイムカプセルを探すことで、新たなスタートを切るという感じの物語だ。三人が10年ぶりに高校時代に戻って、いろいろ思案するという話。昔から、こういう話は何度も作られてきたような気はするが、それなりに新鮮な80分という感じであった。

廃校になった高校をめぐる感じは、一つの冒険であり、それがタイムスリップ空間であったりもする。週末に少し昔に帰る旅。そういうコンセプトの映画なのだろう。そして、その中心に据えられているのはモデルをやっている桜井玲香だ。彼女のモデル仕事のシーンから映画は始まる。そして、端々に彼女の今の事情みたいなのが出てくる。三人の中ではただ一人、フリーの状態の彼女。高校の時はモデルをやっていることで心はトップにあったのだろう。そして、10年後の停滞状態。彼女に心をシンクロさせる人も多いと思われる現代。そう、この10年で女性の歩む道は多くなった気はするが、なかなか理想の道が少ないという感じ。

まあ、他の二人も会社員をやりながらも、別に未来に向けての希望がひらけている訳ではない。高校卒業から10年後の不安みたいなものは、彼女の会話の中でうまく表現はされている映画だ。ただ一人、SNSをうまく使っているようなカメラマン志望の三戸なつめが、うまく三人の接着剤的な感じになっているのは、うまい脚本であると思う。

そして、途中で現役高校生の中井友望が加わり、最後にタイムカプセルに到達する。そして、そこにそれほどの驚きはない。ただ、そこに残った手紙やMDに、皆の友情と未来への想いを感じさせられればよかったのだろう。そう、そんなにサプライズは必要ないとばかりに、ちゃんとそこで三人をリセットさせているのは、監督の映画感みたいなものが、日常にいかに寄り添わせるかみたいなところにあるのではないか?と思わせる。

映画的な、ドラマチックなところは少ない映画だが、ラストの東雲の風景が彼女たちのリスタートを見守る感じが作りたかったのだろう。それは、美しく成就されていたと思う。

そして、岡崎紗絵。もう一つ役どころとして優等生的なところがあり、中途半端な存在感。まあ、まだ高校の制服が似合ったりもするので、女優としては、少女と女性の間を窓んでいる感じ。もう一つステージアップしていただきたい女優さんであります。


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