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「アキラとあきら」池井戸潤の原作の面白さ以上のものが、もう一つ欲しい気がする作品。

三木孝浩監督の作品が続け様に「今夜、世界からこの恋が消えても」「TANG」この作品と3作品が公開されている。パンデミックの影響や番組編成がうまくなくてこうなったのだろうが、これはある意味日本映画界の歪みみたいなものを感じたりする。三木監督自体は、可もなく不可もなく、それなりのレベルの映画を作れる人だと私は思っているのでいいのだが、やはり、映画って多くの監督が興行として切磋琢磨するようなものであると思うので、配給側にも気を遣ってもらいたいし、製作側も一人の監督にオファーが偏ることのないようにしていただきたい。まあ、ビジネス的に考えて三木監督のところにオファーが入っているのでしょうがね(その意味はよくわからないが)

そして、前2作は映画のテーマ的に観るのはパスしたのだが、この作品は池井戸潤原作ということもあり、観に行ったということです。ストーリーは池井戸原作らしい銀行の話。縁あって同期の二人が、銀行という世界で、人を助ける仕事をするという話。昨今の銀行は、国と連携して庶民を助けるというようなことを考えることはなく、ただルーティンのマネーゲームの中で、ダメなものはダメという世界になっている。この映画の中で江口洋介が言うように「確実性のあるもの」しか、ビジネスをしないと言うことだ。それを本質をテーマとし、人間の縁、人生における使命的なものを描いていく、なかなかシンプルで良い話である。

WOWOWがドラマも作って、映画もこしらえたというこの原作。同社としてなぜにそこまでやるのかは不明だが、原作のシンプルな面白さに、映画化も考えたと言うところと、いろんな役者にこの二人を演じさせてみたかったと言うところだろうか(映画版の竹内涼真、横浜流星に対し、テレビ版は斎藤工と向井理)。

で、映画は三木監督らしく、そつなくまとまっている感じで、観客をほぼ満足させる感じの作品であった。ただ、まとまっている中で、もう一つ演出側の哲学的なものが前に浮かんでこないのは不満だったりもする。こう言う題材を、山本薩夫監督や増村保造監督が生きていて撮ったらどうなるだろうか?とか考えると、やはり優しすぎる感じがするのである。上司の江口洋介など、もっと手強い、憎たらしい人間に描いてもいい気がする。とはいえ、江口洋介、なかなかここで新しい役を開拓していた。こう言う無骨な悪い親父ができるような歳になったかと思ったし、これから、こう言う役を引き継ぐ役者として結構活躍しそうな気もする。

主演の二人では、竹内は、ある意味「六本木クラス」の芝居と同じで、優しいだけでもう一つ人間の幅を感じさせないのが気になった。まあ、この役はそう言う役なのだが、出演者の中で背丈も幅も人一倍大きく目立つのでもう一つ迫力のある演技が欲しい気がする。ある意味、身体の大きさは三船敏郎みたいな雰囲気がある。江口や横浜や奥田瑛二も小さく見えるのだから。もう一つ荒々しい演技ができればなと思う次第です。

その竹内の身体のせいで、横浜流星は映画の中でも小さく見えてしまう。演出的にもう少しその辺りデフォルメするように作れなかったか?とは思うが、芝居には、なかなか迫力があった。彼、このところ出演作も多いが、作品ごとに良くなる感じがする。まだまだ伸び代を感じる。

ただ、この主役の二人の育った家庭環境の違いみたいなものが、もっと映画の中ではっきりしてきてもいいような気もする。全く違う哲学が最後に一つに融和するような感じがもっとわかりやすく提示できればこの映画はもっと迫力ある傑作になったのではないか?

映画としては、先ほど山本薩夫監督の名前を出したが、その頃に比べると役者陣の在り方が全体的に小さく感じる。こう言う映画にはもっと腹黒い感じの役者が必要だ。横浜の伯父さん役の、ユースケ・サンタマリアと児嶋一哉は、チンピラの雰囲気は出てるが、腹黒さが足りないというところ。横浜に土下座されて、涙流すユースケはなかなか良かったけどね。昔なら、二人があって話すところなど、もっと高級クラブで、品のない客の演技をするところだろう、誰かさんみたいに。

善人役は塚地武雅や宇野翔平など、それなりの役者がいるのだが、悪人を演じる人がいないと言う感じですよね。

あと、金融の動きの説明の部分がもう一つうまくない。ハンバーガーからセット売りを考えるみたいなシーンがあったが、このようにわかりやすい話を入れ込まないと、今の観客はついていけないのではないか?最後の会社を一つにして再生するところなど、わかるのだが、今ひとつ金の流れが見えにくい。あえてアニメでプレゼンみたいなものをしなかったのだとは思うが、それならば、違う手で観客が「すごい!」と感動させるようにしないとなと思うわけですよ。方法は、私にも浮かんできませんけどね

池井戸原作映画は、話の面白さは問題ないので、やはり、役者を観る映画と言うことになる。そう言う点では、役者さんたちはこころして演じてほしい気もしますよね。


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