五感の記憶


たまにふっと鼻をつく排気ガスのにおい。
深呼吸をしたくなるような健康的な香りではないけど、あのにおいをかいだ途端、鮮明に、ノスタルジックであたたかな空気が、私の周りにだけよみがえる。

においの分子が脳裏に入りこんできて、化学反応を起こしたように、
頭の中には、東南アジアのモーターバイクが道を埋め尽くして走る様が広がって、追憶で背中がほんのりあたたかくなる。

たくさんの太陽光で甘みを最大限に増した南国の果物と、まとわりついてくる舞い上がる土埃と、眩しいくらいビビッドな色彩の花々。

あの時の熱気と喧騒と、まだ駆け出しの旅人だった私の気持ちの昂ぶりを、今でも自分の五感が覚えているのを自覚する。

いつもの日常の中に一瞬だけ登場する、大切な、非日常の旅の記憶。

しばらく、あのあたたかな地には足を踏み入れていない。
次の長く寒い冬を越えたご褒美に、ここからは少し遠いけど、この記憶をたどる旅をしよう。

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