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2021年に読んだ本からオススメの10冊

今年のなかばから、再び読書への意欲が湧いて、家にいる間はもりもりと本を読んだ。じつは、一年半くらい活字が読めない状態に陥っていたから、またこうして読書の悦びを取り戻せたことは、個人的には大きな回復であった。

以前までは、年の瀬になると、毎年決まってこうした年間の読書まとめnoteを書いていたので、今年もメモ的に残しておきたい。

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限界から始まる(上野千鶴子、鈴木涼美)

読書活動を再開し、一発目に手を取ったのがこの一冊。GOの三浦さんが勧めてくださった(基本的にぼくは、人から個別にオススメされた本は必ず読むことにしている)。

読書は言ってしまえば、ただ活字を目で追いかける作業なのに、ときに脳天に揺さぶりをかけてくるほどの知的衝撃を与えてくる。自分の思想世界に地殻変動が起きる。読書は死ぬほど面倒くさい旅行の入り口で、それでいて、果てしなく豊穣な大地へ誘ってくれる、唯一の乗り物となることがある。『限界から始まる』で展開される上野千鶴子さんと鈴木涼美さんの往復書簡を追いかけていくこと、嫌になるほど思い直される。ページをめくる手と溜息が止まらない。

人は皆がそれぞれのうちに、それぞれの地獄を抱えながら生きている。「知らぬが仏」「臭い物には蓋をする」ーー他者への想像力を封殺することは容易だ。生まれ落ちた瞬間から内在化され続けてきた思考や価値観の限界を突破し、自己ー他者ー社会に巣食う地獄に目を向けさせてくれる一冊。

DIE WITH ZERO(ビル・パーキンス)

目から鱗が落ちたというより、自分のこれまでの生き方が肯定された気になった。お金の価値が年齢とともに逓減すること、リスクを取らないことがリスクなこと、記憶だけが死ぬまでの資産であること、お金を最重要視するのでなく健康と時間の最適化を図ること。この本はある意味で、いま巷で脚光を浴びるFIRE(Financial Independence, Retire Early)に対する、究極のアンチテーゼ本じゃないかと思う。

最近読み終えたばかりの『お金の減らし方』(森博嗣)の論旨ともそのまま符号する話で、どこまでいってもお金そのものに価値はない。あくまでもお金の消費先=目的こそが価値であるから。そうお金は増やすものでも、貯めるものでもなく、本義的には減らすものであるはずなのだ。

現代経済学の直観的方法(長沼伸一郎)

一言でいえばヤバイ本。別に内容は経済学じゃなくてもいい。何か物事を体系的かつ立体的に、読者に伝えたいならどうすべきか。「直観的方法」とタイトルにあるように、感情や論理以外にも、直観に焦点を合わせることで解説できる方法があることに目から鱗が落ちまくる。

この本を読んでから、経済学にまつわる枝葉末節について、知識不足があったとしても、大枠や幹の部分に目を向けられるようになった。経済学に関わらず、体系を持つ一群の知識に対する向き合い方、視点の持ち方を涵養できる一冊。

PRINCIPLES 人生と仕事の原則(レイ・ダリオ)

時代は揺り戻しを繰り返しながら、弁証法的に変化を続ける。人もまた社会の流れに方向づけられてしまう。けれども、アイデンティティの根っこに、核心に、自分だけのプリンシプルを確立していたのなら、たじろぐことはなくなる。

この本にインスピレーションを受けて、noteも書いた。

ぼくらは人・本・旅を通じて、自分という存在を反芻しながら、人生の意味を模索しながら、未来に向けての暮らしを営んでいく。その旅路の途中、アイデンティティを絶えず更新しながら、自己は変容し続ける。だけれど、アイデンティティの向こう側、その奥にあって下支えするもの。社会規範や常識にさえ左右されない、自分だけのブレない価値判断基準、それが“プリンシプル”に他ならない。

取材・執筆・推敲――書く人の教科書(古賀史健)

もう編集・ライター業は半分引退しているんだけれど、この一冊だけは読まずにはいられなかった。業界トップのライターである古賀さんが書いた教科書とあれば、引退していようがいまいが、垂涎の一冊であることは疑いようがない。実際、本書は数々の秘伝のタレが惜しげもなく披瀝されている。

ライターとしての経験がある人ならば、自分がなんとなく気づいていたり、掴みかけていたりする、いくつもの暗黙知が形式知として言語化されていることに驚かされるはずだ。質的量的にも『20歳の自分に受けさせたい文章講義』からの大幅なアップデートがある、まさに決定版的な教科書といえる。

もちろんライティングのHOWの部分でも勉強になる箇所は無数になるのだけれど、『取材・執筆・推敲』を僕なりの独断的暴論でまとめると「変態性」の獲得こそが、クリエイティビティの源泉であり、本物のプロフェッションに繋がる、ということ。そしてその、究極の実践編であり実録記として『編集者という病』があるのではないかと、ふと思った。

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか(鈴木忠平)

評判通り、最高の一冊だった。珠玉のストーリーテリング。最高の物語は、ひとりの人物に宿る。構成も面白く、各章にひとりの人物にスポットライトが当たる。突き抜けた合理は非合理に到達してしまい、孤独が個を覆い隠してしまう。本物のプロの生き様。シンプルに、読書の面白さを、これでもかと伝えてくれる。

本心(平野啓一郎)

SFには読めない。現代社会のリアルな病巣とあり様を先鋭的な形で、物語る。だからこそ、僕らが見てみぬフリをして、心の奥底に沈めている感情や絶望が浮き彫りになる。分人主義の表層的なアイデアは誰しもが簡単に理解できるけど、この小説はその深層までも顕現させる。

正欲(朝井リョウ)

マジョリティとマイノリティ、正常と異常、ぼくたちは無限に異なる感覚・欲望・性向を胸に秘めながら、無数の網目からなる世界のどこかに居場所を求めながら、危うい線引きの内側を生きている。「多様性」という概念が断罪・切断してしまう世界線に光を当てる群像劇。

チョンキンマンションのボスは知っている(小川さやか)

「ケニアで中国人マダムの性奴隷になった話」というnoteを書いて勧められて読んだ。大変面白い。ケニアに来てから気づいた「世界には知らない仕事と生活が満ち溢れている」ことをチョンキンマンションの人たちも教えてくれる。絶望の前に、知恵を巡らせたり、他者との相互関係を社会資本に転換していく術を知ること。

Humankind 希望の歴史(ルドガー・ブレグマン)

最後に紹介する一冊は、この本で文句ないでしょう。もうとにかく、ページをめくる手が止まらない。ホッブズvsルソーを起点に、ダーウィン、ドーキンス、そしてジャレド・ダイヤモンドまで。文明を生きる我々が拠り所にしてきた歴史観や理論を「人の善性」という一本の太い光で華麗に、粘り強く相対化していく。個人的に読書の最大の醍醐味は、新しい世界の見方の更新・獲得に尽きる。その意味で、本書は間違いなく読者に新しいパースペクティブを授けてくれる。

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下記に、2019年と2018年の読書まとめも置いておきます。


ケニアで無職、ギリギリの生活をしているので、頂いたサポートで本を買わせていただきます。もっとnote書きます。