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「ご感想への返信2023」No.06

自分が知らなかったセクシュアルマイノリティの分類を学ぶことができました。看護学生としては、セクシュアルマイノリティの患者さんを受け持つこともあると思うので、こうした理解はしておくにこしたことはないと思いました。ただ、無理に性的指向を聞き出したり、共感を必ず示したりする必要もないのかなと思いました。看護過程で患者さんをアセスメントしている時、ゴードンのセクシュアリティの項目で、「結婚して子どもがいるから、マイノリティではないだろう」と推測していたことがありますが、そうではないのだと気付けました。また、それが今回の看護において必ずしも聞き出さなければいけない情報なのかどうかも考える必要があると思いました。
質問です。現在パートナーシップ制度などありますが、今後同性婚が認められたら、結婚したいと思いますか。そもそも同性婚は無条件に認められるべきだと思いますか。RYOJI先生自身のご意見をお聞きしたいです。

学生の感想から

未婚子なしでもシス‐ヘテロだとみなす現状

 男性の50歳時未婚割合が27%というような「ライフコースの多様さ」またセクシュアリティそのものの多様さが知られてきた現代において、患者を観察/分析する上で「結婚して子どもがいること」という客観的データがどれほど有効なのかは考えてみる必要がありますね。もちろん「結婚して子どもがいればシス‐ヘテロである可能性は出てくる」し、「未婚で子どもがいなくても」セクシュアル・マイノリティであるかは分からない。むしろまだシス‐ヘテロである可能性が高いでしょう。ですから多くの医療者は「未婚かつ子どもがいない」私をシス‐ヘテロと見なし、そのように扱います。ただそうした観察/分析上の未確定領域が常にある。そこにはニュートラルでなければならない。そういう話です。

患者のセクシュアリティはいつでも聞き出さなければならないものではないが、常に未確定な要素と心得る

 医療者が私をシス‐ヘテロと予見して「彼女との関係はどうですか」など性的パートナーの性別を異性と限定した問診表現をすると何が起こるでしょうか。わざわざ「彼女」と言われると、ホモフォビアな医療者かもしれないと私は考えます。「この医師に話して大丈夫だろうか」と観察し考える時間が必要になるということです。それは三か月に及ぶことがあるし、もっと長い場合もある。その間は必要な主観的データが取れない、ということが起こる。ですから常に「患者のセクシュアリティは常に未確定である」という意識でいることに加えて、問診表現によって患者本人の言葉をあらかじめ封じてしまわないことが何より大切です。

曖昧な問診表現を避ける/性についての質問を避けない大切さ

 これは医療者が性生活について直接的な表現で聞くことを避けて曖昧表現を選んだ結果、質問意図が分からなくなって患者を混乱させる問題と併せて考えて行かなければならないことです。「あるレズビアンが病院で【男性との関係】を聞かれた。男性との性行為はないが女性とは性行為をもっている。男性との性行為に限定した問診なのか性行為そのものの有無を聞かれたのか分からなかった」という事例もあります。シス‐ヘテロにとっても「異性との関係」は性行為のみを意味しないでしょう。

【事例】患者の全体像は「なかなか把握できない」もの

 これは性/生殖にかかる健康パターンに限らないのですが、アセスメントにおいて患者の全体像を把握する困難さのひとつには「患者本人の自己認識や生活様式の変化」が挙げられます。「認識を待つ時間も必要」であり、かつ「人生では変動が起こるから」です。私がヒアリングした男性同性間性的接触者(MSM=Men who have Sex with Men)の事例をみてみましょう。

・50歳、シスジェンダー男性。
・ヘテロセクシュアル。異性との交際や性行為を重ねていた。
・「恋愛は女性とするもの。結婚したいし子どもも欲しかった」

・30代の終わりに女性同性間のポルノを見た際、性的興奮が全く起こらなかった。異性間のポルノでは性的興奮を覚える。
・(質問)上の経験から性的対象が同性である可能性を考えたか
 (回答)「まさか、自分に限ってそんなことはない」と考え直した

・その後の約10年間、仕事の多忙さもあって恋愛/性愛の関係をもたずに過ごすが、50歳間近になり同性と性行為を経験する。
・「出会い系で人妻に呼ばれ家に行くと夫もいて、夫との性行為を求められて応じた。行為ができたし、性的興奮があった」
・現在は同性とのみ性行為をもつ。性的興奮がある。楽しい。

・「キスは異性とするもの」男性とはできなかったが最近はする/したい
・口腔性交についても男性にはしなかったが「相手による」と変化
・現在も「恋愛は異性とするもの」。同性は恋愛の対象外。

MSM事例。掲載に関しては本人許諾済。

 上記の事例では、この男性には約10年間の間に性的対象と行動様式の変化が起きており、基本的にシスジェンダーかつヘテロセクシュアルという自認に変化はなく、異性との婚姻や生殖についての願望にも変化はない。10年以上の期間をかけた行動の変化、そして意識上での不変は、当人にも予想できるものではなかった。全体像を短期のスパンに数度のヒアリングで把握することの困難が分かっていただけると思います。決めつけず、ニュートラルでいて、時には時間をかけて患者が語り始めるのを待つのです。

「同性婚」が法制化されたら結婚したいか

 ご質問ありがとうございます。「同性婚」は認可されるべきだと考えており、法制化された際には同性婚を選択したいと思います。主たる理由はパートナーに介護等の必要が生じた際、法的伴侶であれるからです。
 しかし近年、実家の人間関係で深刻な不和が生じており、結婚がパートナーを複雑で危険な人間関係に巻き込むことに躊躇も覚えるようになりました。そうした様々な要素が絡むので、結婚観にも変化があるという話です。

「同性婚」は無条件に認められるべきだと思うか

 現行法で認められているように/また社会通念上もそうであるように「成人した二者による」「合意の上での」婚姻を支持しています。その婚姻が同性間にも開かれることを望みます。「異性間での婚姻」にある条件は「同性間の婚姻」にも引き継がれるものと考え、その点に異存はありません。「異性間での婚姻」に付与されていない条件や義務については、「同性間の婚姻」にも付与されるべきではないという考えです。あくまでも同じであることが条件であるべきです。

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