ドアと鍵の物語〜第一章 1
最初に鍵を使った記憶は小学生の時で、名古屋に住み始めた頃だったような気がする。小学校6年の春に東京から名古屋へ引っ越した。東京では祖父母の家の敷地内に家を建てて住んでいたから鍵をかけたこともなく、仮に家に入らなかったとしても向かいにある母屋に行き、冬ならばこたつに入っておやつを食べるという昭和感満載の放課後を過ごせばよかった。扉というのは鍵がかかっていないものだった。小5の終わりの春に風が吹き、なぜかこの場所を去る奇妙な予感がして一週間後引っ越すことを告げられた。初めての転校