駅のホームでの淡い思い出
高校生活は人生でトップクラスにつまらなかった。
勉強も、部活も、遊びも、何かに熱中するわけではなく、何となく日常を過ごしていた。
とはいえ、別に友達がいなかったわけではないし、不良っぽい人や付き合いもあったから、完全にぼっちの生活をしていたわけじゃない。
ただただ「無気力な日々」だった。
高校2年の秋くらいだっただろうか。
授業があまりにもつまらなすぎて、学校に遅刻をするようになった。
欠席をすると色々不都合があるというのは知っていたので、遅刻ならいいだろうという発想の元、遅刻を繰り返すようになった。
遅刻のいいところは、午前に行こうが、午後に行こうが、同じ「遅刻」という扱いになること。
だったら午後のなるべく遅い時間に行ってやろうと、午後から、しかも最後の授業前に登校するという校長先生もびっくりの重役出勤をかましていた。
当時の担任である「始業式でセックスの話をする」でおなじみの田中先生は、変なところでは細かいのに、遅刻しても何も言わなかったのも遅刻常習犯となる一助となった。
登校するまで何をしていたかというと、駅のホームでただぼーっとするだけ。
本当にそれだけ。
今のようにスマホがあれば一日中退屈せずに過ごせたんだろうけど、今から20年前の当時はそんな夢のような機械はない。
かといって参考書を開くわけでもない。
雑誌を開くわけでもない。
携帯ゲームはゲームボーイすら買ってもらえなかった。
自分でも何をしていたんだろうと思うくらい、ひたすらぼーっとしていたんだと思う。
雲ひとつない秋晴れの日。
その日もいつものように駅のホームでぼーっとしていた。
電車が止まっては、通り過ぎていくのをただ眺めていた。
午前10時くらいだっただろうか。
電車が止まってその駅の近くにある高校の制服を着た女の子が降りてきた。
こんな時間に珍しいなと思って彼女を見ていたら、彼女も自分を見つけたらしく、こっちに近づいてきた。
「何してるの?」
と声をかけられた。
彼女はミニスカートで、当時流行していたルーズソックスをはいて、笑顔が似合う明るい感じの子だった。
スクールカーストで上位にくるであろう女子だ。
当時は女子とろくにしゃべれなかった上に、人見知りの性格もあって、かなり挙動不審になっていたと思う。
僕は咄嗟に、
「学校がつまらないから、サボってるんだ」
と、小さい声で返答した。
すると彼女は被せるように、
「ふーん、そうなんだ!たしかにつまらんよね!」
と、笑顔で言ったと同時に自分の横に座り込んで、彼女は、よし話をするぞ、という体勢になった。
僕は高校生活のつまらなさに同意してもらえたのが嬉しくなって、学校生活のこと、趣味のこと、など饒舌に話しをした。
あっと言うまに時間が過ぎていた。
1時間くらい経っただろうか。
彼女は時計を見て、
「じゃあ、そろそろ行かなきゃ」
と言った。
自分は名残惜しさを感じながらも、
「そっか」
「バイバイ」
と小さい声で言うのが精一杯だった。
彼女の後姿を見送るやいなや、僕は次に来た電車に飛び乗った。
彼女が通学するのを見て自分も学校へ行こうと思ったのか、彼女のいないホームにいるのが寂しかったのか、当時の感情は覚えていない。
それ以後は嘘のように遅刻しなくなった。
無気力なのは変わらなかったけれど。
彼女の名前も知らない。
顔もはっきり思い出せない。
でも、当時の僕は間違いなく、彼女の行動と笑顔に救われた。
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