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別れは新たな旅のはじまり

始まりがあれば終わりがある。なんだってそうだ。旅だって、恋だって、命だって。一度始まってしまえば終わりへと向かうだけ。そこに一抹の寂しさはあるが、そんなものだと思えるくらいには何度も「終わり」を経験してきた。

ピースボートでの世界一周も、例に漏れず終わりがくる。加えてそれが明確だからこそ、否応なしに意識させられる。突然始まって突然終わるものもあるが、この旅は始まった瞬間から終わりが決まっていた。残り1ヶ月、1週間と、刻一刻と迫る最後のときを待つ。

そして最終日。船からの最後の朝日を見ようとデッキに出る。同じことを考えて集まってきた仲間と一言二言会話を交わし、東京湾に昇ってきた太陽をぼんやり見つめる。みな最後の夜を惜しむように夜更かしし、ほとんど寝ていないのだろう。太陽の眩しさに目を細める。

いつものように朝食へと向かう。幾度と通ったレストランもこの食事で最後だ。特に代わり映えのしないメニューに安心感を覚え、最後の朝食をとる。食事が終わればいよいよ下船。横浜組はここで船を降り、神戸組は神戸まで残り1日の船旅が続く。

荷物をまとめ部屋を出る。窮屈な4人部屋だったが、3ヶ月以上も暮らすと住めば都だ。同居人との別れを惜しみ、また会おうと約束を交わす。一人二人と下船していき、横浜組が全員降りる頃にはお昼を過ぎていた。

その間も最後の時間を惜しんで多くの人が桟橋に集う。人だかりが離れて静かに涙を流す者。同部屋の子と桟橋を挟んで顔を見ながら電話をする者。みなそれぞれに別れのときを待っていた。

出港の準備が整い、ついにその時が来た。船が徐々に岸壁から離れていく。これで本当にお別れだ。誰かが突然「ありがとう」と大声で叫ぶ。それにつられて、みんな手を振りながら「ありがとう」と続く。100日間を共に過ごした仲間、さまざまな想いがあったが一番大きいのはやっぱり「感謝」だった。

船を追うように桟橋を駆けていく。しかしそれにも限界があった。桟橋の一番端に集まり、みんなで大きく手を振る。しだいに小さくなる仲間たちの姿を見送り、ふとこの言葉が頭をよぎった。「さよならだけが人生だ」。

これでみんなの世界一周は終わった。しかし、この世界一周は終わりではない。これから再び始まる、人生という名の旅の始まりだ。この夢のような100日間を経て、みんなはこれからどこに進んで行くのだろうか。船は寂しさを払うように大きな汽笛を鳴らし、神戸へと向かっていった。


この1ヶ月エッセイで巡ってきた旅も今日でおしまい。いままでお付き合いいただきありがとうございました。

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