想いを綴る

想イヲツヅル #68




彼女とお別れをした




先日
君とファミレスで会った後


そのまま彼女の家に向かった

向かう電車の中で

彼女の予定も事情も考えずに

「今からすぐ会いたい」

とラインを送る


気が付けば

時計は夜の10時に辿り着きそうになっていた

彼女が今夜
僕と会ってくれるのか
わからなかったけれど

僕はいろんな場所のブレーキが
手の施しようがないほどに壊れていて

″とにかく彼女と話さなければ″

という気持ちだけが
前のめりになって

電車のレールの上を
電車を追い越す勢いで

彼女を目指して滑っていく


そして


彼女の家の最寄り駅に着いた頃

返信がもらえた


「いいよ」



それだけの返事だった

僕は

「ありがとう」
「もう家の近くなんだ」


そう伝えて
足を速めていく



久しぶりの彼女の家

今夜はしてこない
換気扇から出る
ホワイトシチューの匂い


心が
身体が
走ったせいなのか
息が上がってしまっていたから

深呼吸をして
息を整えて

ゆっくりと家のドアを開けた


そして

彼女と目が合って

3秒くらいだろうか
それとも果てしない時間なのか

わからないくらいに
見つめ合って


僕は


「ごめん」
「好きな人ができた」


どんな言葉より先に
その想いが溢れていってしまうことになる

そんな僕を見て
言葉を聞いて

彼女は笑いながら

「そんなことだろうと思ってたよ」

「まぁ上がりなよ」

「ちゃんと別れてあげるから」


そう言って

それ以上は何も僕に聞かなかった

本当に何も聞かなかった

僕を責めなかった


ただ

「やっと本当に好きになれると思ってたんだけどな」

「わたしやっぱり不器用だなぁ」


と笑いながら話して


「はい!」
「後ろ向いて!」
「1発蹴らせて!」

「これで終わりね」


そう言って僕に背を向けされると

バシッ!!

と僕の背中を蹴った


僕は突然の衝撃に驚いたが


「もう」
「本当は後頭部を狙ったんだけどな」

「あなた背がでかすぎなんだよ」

と彼女の笑い声がして


振り向くと

彼女は顔をくしゃくしゃにしながら泣いていた


泣きながら
笑いながら


「よし!」
「帰ってよし!」

「その好きな子」
「大切にするんだよ」


「さようなら」

顔も
声もくしゃくしゃにしたまま


そう言うと


さっき蹴った僕の背中を押して

僕を家から追いやった

そして


ドアの鍵をかける


″カチャッ″

という音だけが

虚しく夜空に響いた




あまりにも呆気なく
そして
衝撃的な別れだった

それは一瞬に感じたし

永遠に心にこびり付きそうでもあった


心のグラスが空っぽになってしまった


帰り道
ゆっくりと涙が出た

空いたグラスを埋めるように
ゆっくりと涙が出た

きっとそうなんだ

彼女もずっと考えていてくれたんだ

想っていてくれたんだ

僕がライブの準備や
新曲づくりを頑張っていること


彼女が僕に気を遣って
「会いたい」と言えなかったこと


「なんで連絡くれないの?」

とか

「今日はこんなことがあってさ」

とか

「寝る前に電話していい?」


とかさ



いろんな気持ちを我慢してくれていたこと

なにより

最近
僕が彼女に連絡をしなかったのは

僕が
″舞台のことに
気を遣っているだけではないこと″

を察していたんだと思う


そして


きっと彼女は
僕を家から追い出した後に

もっと
もっと

いろんなところをくしゃくしゃにして
泣いている


僕を責めないかわりに

自分を責めているんだろうと思う

自分が素直になれなかったことを責めているんだと思う


そう思うと

帰り道の僕の涙が

目の前に大きな水たまりをつくって

街頭をぼやかしていった


彼女の

「その好きな子」
「大切にするんだよ」

という言葉が

彼女も
君も

大切にできていない自分に
呪いのように付き纏う



それでも僕は


文字もろくに見れないのに
打てないのに

君に必死で言葉を

想いを綴るのである


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彼女とお別れをしました

12月20日の夜に
配信ライブをするんだ

君にどうしても聴いてほしい歌ができたんだ

よかったら配信を観てほしい

お願いします

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ぼやけた月が

僕をみていた

そして

僕もその月を見つめていた

君が浮かんでくるんだ

月を見るたびに
君を想ってしまうんだ


君が配信を観てくれるかはわからないけれど

想いを込めて歌うよ


君に歌うよ

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