地元に帰省するたびに「東京はどうですか？」と聞かれている。

答えは「決まって楽しいし、充実している」だ。でも、どこかにずっと寂しさがあるような気もする。

どこに行っても人は多いし、建物も高い。大好きな熱海や鎌倉にも電車で行けるし、街によって顔が異なるのも面白い。テレビやラジオは東京が中心で構成されている。実際に住んで街の名前を知ることで、大阪で見ていた番組のほとんどが東京の地域番組なのだと知った。熱心に仕事に取り組む人や自分のペースで気ままに生きている人もいる。多様性のある街だと言えばそうだし、自己責任な街だと表現しても変ではない。自分の人生を生きている人が多いためか、誰かに干渉されることはほとんどない。東京の生活は楽しいけれど、実力のある人が多いからついていくのに精一杯なところもある。だが、頑張っている人がいるから頑張れているのも事実だ。

東京はいい意味で居心地が悪いし、全部を好きになれるわけでもない。地元の大阪には友達がたくさんいて、行きつけのカフェもある。東京のいろいろなものが混じった味にはいまだに慣れないし、満員電車は本当に辛い。東京は嫌というほどに現実を突きつけてくる。上を目指せば目指すほどに更に上がいるとわかるし、仕事をするために生活をしているんじゃないかと思ってしまうほどだ。

大阪に帰省して緩やかな日常に戻るたびに、ぬるま湯に浸かっている感覚に陥る。知っている街で過ごすのはとても快適だが、その時間はあっという間に過ぎ去っていく。東京に帰る間際にまた地元へ帰るために頑張ろうと決意するのだけれど、そこにはほんの少しの寂しさが入り混じっている。

東京駅に着いた瞬間に大阪で過ごした緩やかな時間が嘘かのように忙しない日常が始まっていく。東京メトロへ向かうとホームにはたくさんの人がいる。数分おきにやってくる電車。満員電車に躊躇いながら、恐るおそる電車の中へと入り、人にぶつからないように吊り革にしがみつく。一駅ごとに入れ替わる人たち。この人たちもそれぞれの人生を歩んでいるんだろうなと妄想に耽る。そして、いつの間にか最寄駅に着いていた。

家に帰ってすぐにやり残した仕事を片付けるために無我夢中でPCに齧り付く。ああでもないと言いながら頭を掻きむしりながら、自分の非力さに落胆する。そして、1日を終えた頃にはくたくたになっている自分がいた。毎日が終わる頃に「何のために東京に来たんだ」と自問自答する。仕事で結果を残すために上京した。そして、それは自身が選んだ道だ。大阪に帰りたいとは思わない。自分に負けるのは絶対に嫌だ。だから、もう少し踏ん張ってみよう。

自分を知らない人ばかりがいる土地に移り住んだ。少しずつ友達はできてきたけれど、気軽に飲みに誘えるような友達はまだいない。いや、人を誘うのが極端に苦手なだけだ。相手は飲みに誘ってよと思ってくれているかもしれない。そうだったら良いなと心の底からそう思う。熱い話がしたいと思っても誰に話せば良いのかがわからない。もしも引かれてしまったらどうしようと思った瞬間に、人を誘えなくなる。仕事もそうだ。まだ何も成し遂げたわけではない。新しいことに挑戦はしているけれど、もっとやれるだろうと悪魔のような囁きが自分の中で鳴り響く。

ここ東京で生きていくと決めた。まだ不慣れなことがたくさんあるけれど、少しずつ時間をかけて東京に慣れていきたい。そして、上京して良かったと思える瞬間と何度でも出会いたい。