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子犬の空を掴んで。

 舐められるのが苦手で、あまり犬と戯れたことがない。

 駅で友達を待っていたとき、私から5メートルくらい離れた所に、リードを括られた子犬が居た。多分柴犬というやつで、括らなくても大丈夫そうなほどじっとしていた。

 特に触れてみようとも思わなくて、手持ち無沙汰のまま、しばらくぼーっとその犬を眺めていた。そうしてしばらく眺めていると、子犬が突然むっくと立ち上がり、何を見つけたのか空に手を伸ばしては下ろす、伸ばしては下ろすという動作を始める。

 私は、なんだなんだ?と思い、子犬が何を見つけたのか何気なく探したけれど、別に蝶が飛んでいたわけでもなさそうだった。

 その後すぐに大人しくなったので、私はスマホを取り出して時間を確認しつつ、適当に時間を潰していた。

 友達からもう着いたとの連絡が来たので、壁から背を離し、背伸びをしながらなんとなく周りを見回していたときに私は思った。あの子犬は、もしかして空を見つけたのかもしれないと。天気は晴天も晴天、雲一つない一面の青で、その色を掴もうとしたのだ、と。そうだったら面白いなと思いつつ、人込みの中から覗いた友達に手を上げた。

 向かう方向がその子犬のいる方向だったので、子犬の横を通り過ぎる時に私は一瞬触れてみようかなと思ったけれど、やっぱりやめる。代わりに、子犬が立ち上がっても届かない高さに手を翳して、掴むような動作をして通り過ぎた。きっと、子犬にとっての空はこの辺りなんだろうなと思いながら。

活動の源になります……