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おぞましいほどの水風呂

とんでもない場所を見つけてしまった。

最近は自己紹介の機会で趣味を聞かれるたびに
「筋トレと水風呂です!」
と言って、初対面でよくあるなまじっか共感の票が1つも入らない状況を作り、縮めるべき距離にビハインドを背負ってきた。

ほかにも趣味はないわけではないが、とがった個性をこれみよがしに出したがる自分の悪いクセなのか、これからもきっとこう答え続けるだろう。

というのも、天邪鬼であるからだけでなく相当に水風呂が好きで、耐寒性の高さも上位0.1%には入るだろうと自負しているからだ。

いつも場当たり的に入る街々の銭湯でも、見知らぬおっさんと勝手にチキチキレースをしてきたが、伊調馨選手くらい無敗だろう。

そこそこ冷たい部類の銭湯となれば、暑さに耐えかねてサウナから勢いよく飛び出してきたおっさんを、まるで迎撃するかのようなスピードで追い返す。

そんなときに水風呂に浸かりながら涼しい顔をして佇まい、格の違いを見せつけるのがたまらなく好きだ。

そして次第に、水風呂により強い耐性が付いてきた。

もう18.5℃とか表示された日には服を脱いでそのまま踊り場から逆サイドの水風呂に入ったりする始末だ。

スラムダンクに出てくる山王工業の2年生エース沢北英治が小さい頃親父に1on1を鍛えられすぎたあまり、中学で初めてチームに入ったときに上級生をコテンパンにして悪態をついたシーンを思い出した。

そう、退屈だったのだ。
冷たさに飢えていた。

しかも、これから夏真っ盛りというこの時期は冷媒が効きにくいため、銭湯側からすれば水温を下げるのもかなりコストがかさむから、避けたいのが本音だろう。

じっさい、夏の方がヌルいことが多い。
これは当面、退屈な時間帯を過ごすしかないのか。。


そんな矢先に、ここに辿り着いた。

名を、延命湯という。
大阪駅の一駅となり、福島の路地裏にある明らかに老舗のこの銭湯は入湯料も400円と、街の銭湯らしくリーズナブルだ。

日曜日の夜だったからなのだろうか、下駄箱を見ると1つしか木札が取られていない模様。

支払いを済ませた僕は、ズンズンと浴室を進み、この日はどういうわけかまずサウナに入った。

狭い。。

大人は詰めたとしても5人がやっとくらいの間取りだ。ちょうどプリウスの車内くらい。
そもそもサウナで隣のおっさんと距離を詰めたくはないかもしれないから、多分3人が関の山だ。

そして1つ、決定的に欠けているものに気づく。

どの銭湯にも必ずある、12分計も室温計もないのだ。
それに、よく見かける留意点の記述もない。

ただ、サウナがあるだけだ。

そこでひとしきりの汗をかくと、水風呂に。
ここは珍しく、屋外にある様子。

張り紙にはこうあった。

何の理由で2人があかんのか。
よく分からないが、まあ入るかと軽い気持ちで片足を、ついでもう片足を突っ込んだ。

何かがおかしい、、

一旦引き上げて、今日一日の体調をプレイバックした。
いやむしろ、コンディションは良かったはずだが、、

今度は恐る恐る、片足を入れる。

ダメだ、、

またもや引き上げる。

ここで確信した。
「圧倒的水風呂だ」

いやまってくれ、ホンマに冷たいて!

ちょっと次元の違う、メジャーリーガーが急に打席に立ったような感じだ。
この時点で完全に気後れしている。

走馬灯のように、これまで迎撃された数々のおっさんの顔が浮かぶ。

「負けていった彼らの分も背負うんだ。」

そう覚悟を決めて、今度は身を投げ打つようにして入った。

胸まで浸かる。
もう考えられへんくらい身体からアラームがなっている。

たぶん、30秒ももたなかった。

帰り際に番台のおばさんに聞くと、待ってましたと言わんばかりのしたり顔で
「私が水風呂好きやからね。気持ちええやろ?」と言われた。

リベンジしなければならない。

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