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【小説】麻耶雄嵩『化石少女と七つの冒険』

新刊が出るというだけで、ミステリ界隈を騒つかせる麻耶雄嵩の新作は、なんと『化石少女』の続編。

まさかシリーズ化するとは思わなんだ。

正直、前作は発売当時に読んだきりで、細かい設定は忘却の彼方。

特段面白かった印象もないので、適当にネタバレ記事を漁って、「あ〜、確かにこんな趣向やってたわ〜」と緩く思い出したところで本作を読み始めた。

これが正解だった。

前作の流れを理解していないと、序盤から「??」となってしまう作りになっている。

本当はしっかり再読していた方がより楽しめたんだろうけど、哀しいかな仕事が忙しくそんな時間は作れなかった。

本作は探偵の推理をワトソンが片っ端から否定していく、時には偽証までしてしまう、という探偵役とワトソン役の関係性をおもちゃにして遊んでる麻耶らしい捻くれた趣向が売り。

7つの短編で構成されており、各短編で独立した殺人事件を扱っている。
が、2つ目の短編で、1つ目の短編の犯人を明かしていたり、短編を跨いでの伏線があったりと、各々の結びつきが強いので、くれぐれも掲載順に読んで欲しい。

以下で収録短編を簡単にレビューしてみる。

「古生物部、差し押さえる」
地味ながら、意外なところから湧いて出た伏線に驚かされた。
連作短編集として重要な位置付けの一編。

「彷徨える電人Q」
こちらも地味ではあるけど、犯人の逃走経路に関するロジックは読んでいて心地良かった。
ワトソン役が探偵の推理を否定するポイントは見え見え。

「遅れた火刑」
あまり意外性のある真相ではないが、まりあのトンデモ推理は割と楽しめた。

「化石女」
ダイイングメッセージ(DM)テーマの一編。
DMと聞けば、そもそも被害者が残した物なのか?とついつい捻くれた考え方をしてしまうのが本格ミステリ読みの哀しい性だが、これは真正面からぶつかってきてくれた。
伏線に裏打ちされたDMの解は至極単純で、盲点。

「乃公出でずんば」
伏線となる部分が浮いていて、分かりやすくなってしまっているきらいはあるけど、切なさを感じさせる真相は、僕は今学園ミステリを読んでいるんだと思い出させてくれる。

「三角心中」
とうとう一度に3つも死体が出た。
けど、その分凝った真相で、短編としての面白さでは作中ベスト。
首を吊った男の両脇に赤い糸で結ばれた女の死体が2つ。その死体には雪が降り積む。
詩的でいいじゃないの。

「禁じられた遊び」
殺人事件は起こるものの、連作短編集としてのオチという印象が強い。
ただ、このオチが曲者。
あまり多くは語れないが”探偵の推理を否定し続けるワトソン役”という「化石少女」の趣向の果てを魅せるにはこれしかないというもの。
それも、とあるサプライズが真相の黒さを際立たせている。

傑作!と言えるものではないけど、間違いなく麻耶雄嵩の本格ミステリを読んだという満足感は得られた。

でもそろそろ長編を読ませて欲しい。
『隻眼の少女』が最後の長編だから、もう12年くらい前なのか。
連載終了してる『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』の刊行はいつなのでしょうか…?

今年はもう満足した。
だから来年こそ頼むぞ麻耶。

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