30代のお酒の嗜み、バー文化とそこにある音楽。(2)

MODに通うようになり、1ヶ月もしない頃に、同年代くらいだろうか、ひとりで飲みに来ている女性と隣り合った時があり、今では最初にあった時にどんな話をしたかは忘れてしまったが、背が高く、長い黒髪のその雰囲気が印象に残っていて、その最初に会った週末から、週をあけずにまた土曜に、彼女に会えないかと期待して銀座に向かった。そうしたら、その週も彼女が先にひとりで飲んでいた。となりが空いていたかは忘れてしまったが、前の週と同じくとなりで一緒に飲み、話をさせてもらった。彼女の名刺をもらったのだが、化粧品会社の広告宣伝部でコピーライターをされていることが分かった。
少し、話が彼女から外れるが、どうやら、このMODというバーは、自分が今まで、社会人になって知り合ってきた大手企業の総合職(もちろん、そういう肩書きの方も少しはいたのだけれど)という職種ではなく、もう少し小さい、広告代理店、出版社、あるいはフリーランスのデザイナー、クリエイターが集う場になっていることが、足を運ぶたびに分かってきた。先に書いた、銀座ならではのビルのオーナーや、老舗のオーナーもお客様でいらっしゃったし、またもう少し、現役世代の若いクリエイターが集う場所という印象も(それが、銀座だからなのかは分からないが)拭えないものとなっている。またその、クリエイターという世界の常連客の中には、山口勝弘さんという、皆から、「先生」と呼ばれている前衛アーティストの方の存在が大きかった。この方とも名刺交換させて頂いたのだが、恥ずかしながらその名前を存じ上げてなくて、帰宅して、父親にこういう人と今日飲んだよ、と名刺を見せたら、とても驚いていたので、やはり、常連客のクリエイターたちの中では、MODの象徴的な存在だったのだろうと、今、振り返って思っている。ただ、その飲み方は、決して横柄でなく、独善的でもなく、普通の少しおしゃれな初老の男性という、いつもニコニコして飲んでいる印象しかない。こういう、やはり、サラリーマン飲みでは知り合えない人たちと出会えるのが、バーの良いところだと思うし、その飲んでいる時の話題も、ただ世間話なのだけれど、どこか興味がわく話題であったりして、一緒にいて楽しいお酒なのだ。あと、村嶋さんという、やはりフリーランスのデザイナーの方とも、MOD通いの最初の頃、名刺交換をさせて頂いた。出身大学は日大芸術学部。全く、自分の人生とは違う生き方をされていて、憧れもあり、慕っていたので、とても可愛がってもらった。それも、懐かしい思い出だ。
という、MODの常連客のことについて話が外れてしまったが、先のコピーライターの彼女、話を聞くと、相当の音楽好き(洋楽メイン)で、いつもポータブルCDプレイヤーを持ち歩いていたし、自分も音楽好きだと思っていたが、彼女の方が、とても深くて広い知識があり、MODの神谷さんとも、一緒に「あ、あれいいよね!」って感じで盛り上がれて、最初の頃はとても羨ましく思ったものだ。とにかく容姿も素敵だし、同年代だし、自分も会社の化粧品販売部門で人事の仕事をしていて、共通の業界ということもあり、クリエイターという仕事をしている人に対する憧れもあり、自然にという感じで、何回かMODで会っているうちにお付き合いをすることになった。この、バーで偶然出会って、知り合って付き合うようになり、カップルによっては、やがて結婚するというパターンが、自分が思っていたより沢山あることも、今までの居酒屋飲みとは違う、バーならではの特徴なのだと思ったものだ。女性目当て、男性目当てで、というのは無粋だし、お店からも排除されてしまうのだろうけど、あくまで、自然の出会いを提供するバーの役割は、とても大きいものだと感じている。
その彼女と付き合うようになって、一緒に彼女の自宅に行き、音楽を聞いたりして、おすすめのアーティストを教えてもらったことも懐かしい。最初は、アル・クーパーのNaked Songというアルバム。とりわけ「Jolie」が印象的で、そのCDを借りて、自分の家で、繰り返し聞いたものだ。MODでも、神谷さんがたまにかけてくれたように思う。本当に洋楽好きなら、おそらくマストアイテム、名盤なのだろう。そういう音楽知識を、ビッグヒットではなくとも、知っている人は知っているという音楽を、バーテンダー、あるいは横並びのお客さんから教えてもらえるのも、バーならではの魅力だと思っている。

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