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永遠に美しく

「鏡よ鏡、世界で最も美しいのはだぁれ?」魔法の鏡に向かって王女がそう尋ねると、鏡は凛とした声で、「それは王女さま、あなたでございます」と言った。王女はその答えを聞くたびに自らの美しさを誇らしく思うのが日課であった。

「それは……白雪姫でございます」その日は唐突にやってきた。世界で最も美しいのは自分ではなく白雪姫となった。王女は大きなショックを受けた。そして奮起した。王女は美を保つために徹底管理していた食事のバランスを更に見直し、新しいパーソナルトレーナーを雇ってもっと美しくなるための厳しいトレーニングメニューを組んだ。「鏡よ鏡、食事を見直し、トレーニングを始めて半年が経ったわ。世界で最も美しいのはだぁれ?」「それは……王女さま、あなたでございます」王女は世界で最も美しい女性の座を見事に奪還した。

歳を重ね、代謝が落ちたり肌の老化が進んでゆく王女とは逆に、思春期を迎えた白雪姫は成長と共に加速度的に美しさを増してゆく。白雪姫の追走を振り切って世界で最も美しいままであり続けるのは並大抵の努力では済まなかった。しかし王女はそれをやり切った。18歳から43歳まで、実に25年もの間、たった一度だけ白雪姫に1位の座を許した以外、王女は世界で最も美しい女性に君臨し続けた。その間に3度の妊娠と出産と育児を経てもなお、だ。魔法の鏡は王女の偉業を称え、王女の美しさを殿堂入りとした。王女は少し寂しく思いながらも、世界で最も美しいのはだぁれ?ランキングを後進に譲ることにした。王女が退いて以後、世界で最も美しいのはだぁれ?は毎年のように目まぐるしく入れ替わっている。王女が成し遂げたことがどれだけとんでもない偉業だったかがよく分かる。

殿堂入りを果たしランキングから抜けたあとも、王女は美しさを保つ努力は怠らなかった。53歳にして出演した『しゃべくり007』では、あまりの美しさに驚いたフットボールアワー後藤が、「美の温度差あり過ぎて隣の岩尾が蒸発しかけとるぞ」というツッコミを残したのは有名な話だ。

人として生まれ女として生まれたからには、誰だって一度は世界で最も美しいを目指すものだ。ある者は生まれてすぐに、またある者は口紅を引いた母親に、またある者はクラスのマドンナの笑顔に、またあるものはミス・ユニバースの美しさに屈して、それぞれが最も美しいものの座をあきらめ、それぞれの道を歩んだ。医者、政治家、実業家、漫画家、小説家、パイロット、教師、サラリーマン。しかしここに、あきらめなかった者がいる。偉大なバカヤロウ。この地上で誰よりも、誰よりもッ、美しいを飢望(のぞ)んだ者。「美しい」はスバラシイ!!!ビューティフル イズ ワンダフル!!!……私は、母を尊敬しています。

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