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蜻蛉にまつわるエトセトラ

夏真っ盛り、外を歩けば蝉の大合唱が響く季節である。そんな中、昨日の帰り道にトンボが飛んでいるのを見かけた。トンボは秋の虫だというイメージだけど夏にも飛んでいるものなのだなぁと、ぼんやりとトンボに思いを馳せる。

そう言えば宙返りをすることを『とんぼ返り』と言うなぁと思った。トンボみたいに空中でくるっと回るからとんぼ返りと言うんだろうな。なるほどと得心する。『蜻蛉切(とんぼきり)』という名前の付いた刀だったか槍だったかもあったと思うが、これはどういう由来なのだろうか。蜻蛉切と言えば、宙返りを表すのに『とんぼ返り』だけじゃなく『とんぼを切る』という言い方もある。とんぼを切る?空中でくるっと回って空飛ぶトンボを切って見せた剣豪の逸話でもあるのだろうか。佐々木小次郎が空を飛ぶ燕を切って『燕返し』を会得したのと同じようなことなのだろうか。刀でトンボを切るだけなら出来なくもないかもしれないが、宙返りをしながらトンボを切るのは無理ゲーじゃないか?そう言えばトンボは昆虫の中ではめちゃくちゃ強いと聞いたことがある。こないだ行ったアウトドアショップでトンボの形をした虫除けを売っているのを見た。トンボが強すぎるから、トンボの形をした模型を吊るしておくだけで他の虫が寄って来なくなる効果があるのだという。お店で手に取ってみて、意外と高かったから買わなかったけど、ちょっと面白いし買ってみても良かったなぁ。1匹のトンボから、トンボにまつわるエトセトラがぐるぐると頭を回る。こんなふうにトンボについて色々と考えたのは多分生まれて初めてだった。

家に帰ってから、『とんぼを切る』を調べてみた。『とんぼ』はなんと歌舞伎の用語で、『宙返り』のことを指す言葉なのだという。曲がりなりにも演劇人の端くれだが、恥ずかしながら調べてみるまで知らなかった。立ち回りの中で、刀で斬られたり投げ飛ばされたりした時に見せる宙返り。そう言われると確かに見た記憶がある。『見得を切る』、『正面を切る』のように、舞台上で何かをやる時に『切る』という言い方がある。それに倣って、『とんぼ』を『切る』と言うのだろう。別に空飛ぶトンボを刀で切ったわけではないのだ。

同じく調べてみた『蜻蛉切』の方は、ちゃんとトンボを切った逸話に由来があるようだ。室町時代に作られ、戦国時代の武将・本多忠勝が愛用したことで知られる名槍。戦場で槍を立てていたところに飛んできたトンボが当たって真っ二つに切れたことから、『蜻蛉切』という銘が付いたらしい(諸説ある)。名刀『村正』のエピソードで、刀身を川面に浸けると流れてきた木の葉が真っ二つに切れたという話を聞いたことがある。斬れ味の鋭さを表すエピソードとして、止まっている刃に当たった何かが斬れてしまう、というのは分かりやすい定番なのかもしれない。

野球部がグラウンドをならすのに使うやつもトンボと言うし、とんぼのめがねは水いろめがねだなんて童謡もあるし、とんぼの歌なら長渕剛のもある。改めて考えてみると、昔から身近な虫として親しまれてきたんだなぁと感心した。トンボの幼虫のヤゴが成育するには綺麗な水場が必要だと聞いたことがある。東京の都心でも割とトンボを見かけるということは、意外とそういう水場も残っているということなのだろう。トンボのいる風景、守っていきたいものですね。

……それはそうとして、『トンボ』と『とんぼ』と『蜻蛉』の表記のゆれがめちゃくちゃ気持ち悪い文章になっちゃったな。。。

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