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席についてもひとり

歳を重ねるにつれて、何につけても初体験の機会は減ってくるものだ。そんな中、昨日はちょっとした初体験をした。初めてひとり焼き肉に行ってみたのだ。

都内でもちらほら見かけるようになった、ひとり焼き肉大歓迎を売りにしたチェーン店だった。昔は、ひとりで焼き肉?嘘でしょwみたいな世論だったように思うが、最近はすっかり市民権を得てきた感がある。僕がこれまでひとり焼き肉未体験だったのも、特に理由があるわけでもなくただ『何となく』だ。せっかく初めてのひとり焼き肉なのだから大いに楽しみたい。事前にネットでメニューを見て予習したりして、ワクワクソワソワしながらお店に向かった。

結論から書いてしまうと、満足度としては大いに期待はずれだった。せっかくだからと色んな種類のお肉が食べられるセットにしてお値段1800円くらいだったのだが、満足度を金額で換算するなら900円ぐらいだったろうか。所詮チェーン店でお肉が特別美味しかったわけでもないし、パーテーションで区切られた狭いカウンター席で窮屈に肩を狭めて食べる焼き肉はシンプルに楽しくなかった。これならスーパーで1000円分の肉を買ってきてうちで焼き肉をやった方がよっぽどマシだ。お店に入った時のワクワク感は席に着いた段階で消え失せ、ソワソワと落ち着かないまま肉を食べ終え、そそくさと帰路についた。

帰りのチャリを漕ぎながら、どうして満足度が低かったのだろうと考えた。ひとり焼き肉をしたことがなかったということは、これまで僕は焼き肉に行く時は常に誰かと一緒だったということだ。家族、友達、恋人。そういう気の置けない人たちとワイワイ話しながら何かを食べるのが好きだっただけで、僕は別に焼き肉が好きだったわけではなかったのだ。ひとり焼き肉はひとりで気軽に大好きな焼き肉を食べたいという人が行くべきもので、ただ僕はそれではなかったのだ。「次何頼もうか」「ホルモン食べれる?」「これもう焼けてるよ」「わ!牛タンが分厚いの嬉しいよね」「その辛いタレ結構辛い?」「カルビってどこの肉なんだっけ?」「玉ねぎめっちゃ焦げちゃったw」焼き肉を食べながら交わす、何でもない会話が恋しかった。僕が焼き肉に求めていたのは焼いた肉ではなくみんなと過ごすあの愛すべき時間だったのだ。

何となく満たされない気持ちを埋めようとしたのか、焼き肉を食ってきたばかりだというのにコンビニに寄ってプリンを買って帰って食べた。プリンは甘くて美味しくて満足度100点だった。もしプリンも誰かとワイワイしながら食べるのが当たり前なのだとしたら、ひとりプリンも物足りなく思ったのだろうか?そう考えるとひとり焼き肉を楽しめる人の方が幸せなのかもしれない。美味しいものを食べる幸せ、美味しいものを食べながら皆と楽しく過ごす幸せ、それは似て非なるものなのだということを学んだひとり焼き肉初体験でありました。ごちそうさまでした。

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