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ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第18回】

2022年も引き続きペリクレス葬礼演説を解説していきたいと思います。今回は、直訳すると少々ややこしい文章に挑みます。

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原文(Thuc. 2.38)と翻訳:18文目

ἐπεσέρχεται δὲ διὰ μέγεθος τῆς πόλεως ἐκ πάσης γῆς τὰ πάντα, καὶ ξυμβαίνει ἡμῖν μηδὲν οἰκειοτέρᾳ τῇ ἀπολαύσει τὰ αὐτοῦ ἀγαθὰ γιγνόμενα καρποῦσθαι ἢ καὶ τὰ τῶν ἄλλων ἀνθρώπων.

Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.

筆者翻訳
ポリスの強大さ故に、あらゆる土地から全てのものが輸入され、この地で生み出された恵みを、他国の人々のものも同様に、身近な楽しみとして、あなた方は自由に享受しているのです。

解説:語彙

  • ἐπεσέρχεται:基本形はἐπεισέρχομαι、動詞・現在形・中動態・3人称単数・直説法、「輸入される」

  • δὲ:連結の小辞、前文との繋がりを示している。

  • διὰ:前置詞、対格(μέγεθος)を取り、「~の故に」

  • μέγεθος:基本形は同じ、名詞・中性・単数・対格、「強大さ」

  • τῆς:冠詞・女性・単数・属格、πόλεωςに繋がる。

  • πόλεως:基本形はπόλις、名詞・女性・単数・属格、「ポリスの」

  • ἐκ:前置詞、属格(πάσης)を取り「~から」

  • πάσης:基本形はπᾶς、形容詞・女性・単数・属格、「あらゆる」

  • γῆς:基本形はγῆ、名詞・女性・単数・属格、「土地」

  • τὰ:冠詞・中性・複数・主格、πάνταに繋がる。

  • πάντα:基本形はπᾶς、形容詞・中性・複数・主格、τὰを伴い名詞化されている。

  • καὶ:接続詞、前文と後文を繋ぐ。

  • ξυμβαίνει:基本形はσυμβαίνω、動詞・現在形・能動態・3人称単数・直説法・非人称、不定詞を取り「~することが起きる」。分かりやすく「~している」とした。

  • ἡμῖν:基本形はἐγώ、人称代名詞・男性・複数・与格、非人称動詞(ξυμβαίνει)における主語の役割を果たす。「あなた方は」

  • μηδὲν:副詞、「決して~ない」

  • οἰκειοτέρᾳ:基本形はοἰκεῖος、形容詞・女性・複数・与格・比較級、「より身近な」

  •  τῇ:冠詞・女性・単数・与格、ἀπολαύσειと繋がる。

  • ἀπολαύσει:基本形はἀπόλαυσις、名詞・女性・単数・与格、「楽しみ」

  • τὰ:冠詞・中性・複数・対格、ἀγαθὰに繋がる。

  • αὐτοῦ:副詞、「この地で」

  • ἀγαθὰ:基本形はἀγαθόν、名詞・中性・複数・対格、「恵み」

  • γιγνόμενα:基本形はγίγνομαι、動詞・分詞・現在形・中動態・中性・複数・対格、ἀγαθὰを修飾する。「生み出された」

  • καρποῦσθαι:基本形はκαρπόω、動詞・不定詞・現在形・中動態、「自由に享受する」

  • ἢ:比較級、「(ἢ以下)よりも」

  • καὶ:強調の副詞

  • τὰ:冠詞・中性・複数・対格、ἀγαθὰが省略されている。

  • τῶν:冠詞・男性・複数・属格、ἀνθρώπωνと繋がる。

  • ἄλλων:基本形はἄλλος、形容詞・男性・複数・属格、ἀνθρώπωνを修飾する。「他の」。ここではαὐτοῦと対比させ「他国の」としている。

  • ἀνθρώπων:基本形はἄνθρωπος、名詞・男性・複数・属格、「人々の」

解説:構造

この文はκαὶを境に2節に分かれていますが、特に後半の節がややこしい構文になっています。後半だけ直訳すると下記になります。

καὶ ξυμβαίνει ἡμῖν μηδὲν οἰκειοτέρᾳ τῇ ἀπολαύσει τὰ αὐτοῦ ἀγαθὰ γιγνόμενα καρποῦσθαι ἢ καὶ τὰ τῶν ἄλλων ἀνθρώπων.
この地で生み出された恵みを、他国の人々のもの以上により身近な楽しみとして、あなた方が自由に享受することにはなりません

分かりにくい言い回しですが、英語のno less than構文のように、「~と同じくらい~である」という意味になると思われます。no less thanと対応させるとしたら:

no = μηδὲν
less = οἰκειοτέρᾳ τῇ ἀπολαύσει
than = ἢ καὶ τὰ τῶν ἄλλων ἀνθρώπων.

になるでしょうか。οἰκειοτέρᾳは比較級のmoreの用法なので、厳密にはno less thanには対応しませんが…。

尚、ξυμβαίνειは非人称動詞(人称を主語としない動詞)として機能しているので、καρποῦσθαιが主語になっています。要点だけを直訳すると:

τὰ αὐτοῦ ἀγαθὰ γιγνόμενα καρποῦσθαι / ἡμῖν / ξυμβαίνει 
この地で生み出された恵みを自由に享受することが / あなた方に / 起こっている

となります。しかし、このまま訳すとぎこちないので、人称の与格(ἡμῖν)を主語として訳出しました。

逐語訳

(δὲ)ポリスの(τῆς πόλεως)強大さ(μέγεθος)故に(διὰ)、あらゆる(πάσης)土地(γῆς)から(ἐκ)全てのもの(τὰ πάντα)が輸入され(ἐπεσέρχεται)、(καὶ)この地で(αὐτοῦ)生み出された(γιγνόμενα)恵みを(τὰ  ἀγαθὰ)、他国の(ἄλλων)人々の(τῶν  ἀνθρώπων)もの(τὰ)も(καὶ)同様に(μηδὲν…ἢ)、身近な(οἰκειοτέρᾳ)楽しみとして(τῇ ἀπολαύσει)、あなた方は(ἡμῖν)自由に享受(καρποῦσθαι)しているのです(ξυμβαίνει)。





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