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ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第15回】

今回は民主政下における市民の行動に光を当てていますね。欧米の基調となっている個人主義の原点を感じさせます。

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原文(Thuc. 2.37)と翻訳:15文目

 ἐλευθέρως δὲ τά τε πρὸς τὸ κοινὸν πολιτεύομεν καὶ ἐς τὴν πρὸς ἀλλήλους τῶν καθ᾽ ἡμέραν ἐπιτηδευμάτων ὑποψίαν, οὐ δι᾽ ὀργῆς τὸν πέλας, εἰ καθ᾽ ἡδονήν τι δρᾷ, ἔχοντες, οὐδὲ ἀζημίους μέν, λυπηρὰς δὲ τῇ ὄψει ἀχθηδόνας προστιθέμενοι.

筆者翻訳
我々は、国家に関することを、そして、日常生活での互いに対する嫉妬の眼差しに関しても、市民として自由に活動している。なぜなら、もし娯楽の為に何かしているのであれば、隣人に怒りを抱くことは無く、無害ではあるが苦痛をもたらす苛立ちを視線に含ませることもない。

解説:語彙

・ἐλευθέρως:副詞、「自由に」
・δὲ:小辞、前文との関連性を示している。
・τά:冠詞・中性・複数・対格、πρὸς τὸ κοινὸνと繋がり名詞化する。
・τε:連結の小辞、καὶと繋がり「そして」。τά...πρὸς τὸ κοινὸνとἐς…ὑποψίανを並列させている。
・πρὸς:前置詞、対格(τὸ κοινὸν)を取り「~に関する」
・τὸ:冠詞・中性・単数・対格、κοινὸνと繋がる。
・κοινὸν:基本形はκοινός(形容詞の名詞化)、名詞・中性・単数・対格、「国家」
・πολιτεύομεν:基本形はπολιτεύω、動詞・現在形・能動態・1人称複数・直説法、「市民として活動する」
・καὶ:接続詞、τεと繋がり「そして」
・ἐς:前置詞、対格(τὴν... ὑποψίαν)を取り、「~に関して」
・τὴν:冠詞・女性・単数・対格、ὑποψίανと繋がる。
・πρὸς:前置詞、対格(ἀλλήλους)を取り、「~に対する」
・ἀλλήλους:基本形はἀλλήλων、名詞・男性・複数・対格、「お互い」
・τῶν:冠詞・中性・複数・属格、ἐπιτηδευμάτωνと繋がる。
・καθ᾽:前置詞、対格(ἡμέραν)を取り、「~毎の」
・ἡμέραν:基本形はἡμέρα、名詞・女性・単数・対格、「日」。καθ᾽ἡμέρανで「日常」とする。
・ἐπιτηδευμάτων:基本形はἐπιτήδευμα、名詞・中性・複数・属格、「生活」
・ὑποψίαν:基本形はὑποψία、名詞・女性・単数・対格、「嫉妬の眼差し」。「猜疑」とする解釈もあるが、LSJの用例に従い「嫉妬」とした。
・οὐ:否定の小辞
・δι᾽:前置詞、属格(ὀργῆς)を取り「~を通して」
・ὀργῆς:基本形はὀργή、名詞・女性・単数・属格、「怒り」
・τὸν:冠詞・男性・単数・対格、πέλαςと繋がり名詞化している。
・πέλας:副詞、「近所の」。τὸνで名詞化され「隣人」。δι᾽ ὀργῆς「怒り」の対象と取る。
・εἰ:条件の接続詞、「もし~なら」
・καθ᾽:前置詞、対格(ἡδονήν)を取り、「~の為に」
・ἡδονήν:基本形はἡδονή、名詞・女性・単数・対格、「娯楽」
・τι:基本形はτις、不定代名詞・中性・単数・対格、「何か」 
・δρᾷ:基本形はδράω、動詞・現在形・能動態・3人称単数・直説法、「する」
・ἔχοντες:基本形はἔχω、動詞・分詞・現在形・能動態・男性・複数・主格、 δι᾽ ὀργῆςとτὸν πέλαςを伴い、「怒りを通して隣人を持つ」すなわち「隣人に怒りを抱く」 
・οὐδὲ:否定の小辞、連続の小辞δὲと一体化している。
・ἀζημίους:基本形はἀζήμιος、形容詞・女性・複数・対格、「無害な」
・μέν:対比の小辞、下記のδὲと繋がる。「~であるが…」
・λυπηρὰς:基本形はλυπηρός、形容詞・女性・複数・対格、「苦痛をもたらす」
・δὲ:対比の小辞、上記のμένと繋がる。「~であるが…」
・τῇ:冠詞・女性・単数・与格、ὄψειと繋がる。
・ὄψει:基本形はὄψις、名詞・女性・単数・与格、「視線に」
・ἀχθηδόνας:基本形はἀχθηδών、名詞・女性・複数・対格、「苛立ち」
・προστιθέμενοι:基本形はπροστίθημι、動詞・分詞・現在形・中動態・男性・複数・主格、「含ませる」

解説:構造

今回の文は大きく2つの構造に分けることができます。前半の主文となるἐλευθέρως~ὑποψίανと、その主文を分詞で付帯的に説明しているοὐ δι᾽ ὀργῆς~προστιθέμενοιです。

まずは前半ですが、基本構造は下記になります。

主語:省略(我々)
述語:πολιτεύομεν(市民として活動する)
目的:τά τε πρὸς τὸ κοινὸν (国家に関することを)
副詞:ἐλευθέρως(自由に) 
副詞句: ἐς τὴν πρὸς ἀλλήλους τῶν καθ᾽ ἡμέραν ἐπιτηδευμάτων ὑποψίαν (日常習慣でのお互いに対する嫉妬の眼差しにおいても)

目的語の句は冠詞のτάと繋がっており、名詞化(対格)されています。E.C. Marchantの指摘するように、ここは内的対格の用法で、πολιτεύομενの内的目的語になっていると思われます。

次は上記の主文を修飾している分詞構文を切り分けてみましょう。まずは条件節と帰結文にザックリと分かれます。条件節の主語は第三者(隣人)で、帰結の主語は「我々」です。

条件節:εἰ καθ᾽ ἡδονήν τι δρᾷ(もし娯楽の為に何かしているのであれば)
帰結文:οὐ δι᾽ ὀργῆς τὸν πέλας ἔχοντες(隣人に怒りを抱くことは無く) /οὐδὲ ἀζημίους μέν, λυπηρὰς δὲ τῇ ὄψει ἀχθηδόνας προστιθέμενοι.(無害ではあるが苦痛をもたらす苛立ちを視線に含ませることもない)

翻訳では、分かりやすいように文章を主文と分けてみましたが、ギリシア語では主文と繋がっています。上記の分詞は主文動詞πολιτεύομενの主語、主格複数と同一であり、分詞構文はそれを修飾していると考えられます。

分詞を繋げて訳すと、下記になると思います。(原因の分詞と取りました)日本語だと修飾が前に来るので、なんだかスッキリしない感じになりますね。

もし娯楽の為に何かしているのであれば、隣人に怒りを抱くことは無く、無害ではあるが苦痛をもたらす苛立ちを視線に含ませることもない故に、国家に関すること、そして、日常生活での互いに対する嫉妬の眼差しに関しても、我々は市民として自由に活動している。

逐語訳

我々は、 (δὲ)国家(τὸ κοινὸν)に関する(πρὸς)こと(τά)を、そして(τε...καὶ)、日常(καθ᾽ ἡμέραν)生活での(τῶν...ἐπιτηδευμάτων)互い(ἀλλήλους)に対する(πρὸς)嫉妬の眼差し(τὴν...ὑποψίαν)に関しても(ἐς)、市民として自由に(ἐλευθέρως)活動している(πολιτεύομεν)。なぜなら、もし(εἰ)娯楽(ἡδονήν)の為に(καθ᾽)何か(τι)している(δρᾷ)のであれば、隣人に(τὸν πέλας)怒りを( δι᾽ ὀργῆς)抱く(ἔχοντες)ことは無く(οὐ)、無害(ἀζημίους)ではあるが(μέν...δὲ)苦痛をもたらす(λυπηρὰς)苛立ちを(ἀχθηδόνας)視線に(τῇ ὄψει)含ませる(προστιθέμενοι)こともない(οὐδὲ)。

※原文の出典:Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.


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