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週末読書メモ93. 『真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したか』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

今この瞬間の向き合い方・高め方とは。


一回十五秒で、一年間に五〇〇〇万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。その五〇〇〇万回の”真実の瞬間”が、結局スカンジナビア航空の成功を左右する。その瞬間こそ私たちが、スカンジナビア航空が最高の選択だったと顧客に納得させなければならない。

胸に刺さります。

1回15秒、1年間に5000万回。その瞬間を最高のものにしていく積み重ねが、レッドオーシャンの業界の中で、傑出した存在になる鍵だったと。


本書の筆者は、スカンジナビア航空の元CEO、ヤン・カールソンさんです。

失速寸前だったスカンジナビア航空の業績を改善させた経営哲学こそが、「真実の瞬間」への追求。カールソンさんが焦点を当てたのは、顧客満足であり、お客様と従業員との1回15秒の僅かな接点でした。

さて、ヤン・カールソンなら、そうした問題をどう解決するか。コミュニケーションを阻む横の障害を排除すること。「部下を指令どおりに動かすために雇われている」中間管理職を、マネジャーから、旅客と市場にじかに接する最前線の従業員のリーダー、支援者に変身させることなどが、カールソンの解決策だ。


上記の上で、本作で刮目すべき点は、「真実の瞬間」を生み出すために、その裏でカールソンさんが力を注いでいる姿にあります。

最前線の従業員に裁量権を与えることも重要だが、リーダーシップも不可欠だ。
(中略)新しいリーダーシップの武器は、明確で簡潔なビジョンと、人間味のある、すぐれたコミュニケーション能力だ。人間味といっても、軟弱な感傷ではない。カールソンは、新しい経営者を「啓発された独裁者」と呼んでいる。ビジョンの細かい実施内容ではなく、ビジョンそのものに忠実であることが、新しい経営者の条件となる。

私たちは、経費とは「悪」であり、つねに最小に切り詰めなければいけないという考えをやめ、競争力を高めるための資源だと考えるように方針を変えた。
(中略)そこで私たちは、資産や経費、業務を詳細に検討して、自問してみた。「はたしてこれはビジネス旅行者の要望に応えるのに必要だろうか」。
(中略)何かが不足していれば、ためらわず補強した。つまり、一つの項目を一〇〇パーセント改善するかわりに、一〇〇の項目を一パーセントずつ改善していくことにしたのだ。

上記から分かること、それはただ一瞬一瞬に全力を尽くすだけでは充分ではないことです。

リーダーシップにガバナンス、裁量権から情報共有、予算配分にまで。その真実の瞬間のため、様々な観点からやれることをやり尽くす必要があると。


改めてハッとさせられます。

未来だけでなく、目の前の瞬間に力を尽くす重要性は、仏教やマインドフルネスの世界で説かれています。

また、未来と今の一瞬の両方を同居させるとはいかなることかは、ジェフ・ベゾスさんをはじめとした方々の姿から垣間見ることができます。

それらを踏まえた上で、本書に描かれた「真実の瞬間」の向き合い方・高め方には胸に残るものがありました。

その瞬間に全力を尽くすだけでなく、その瞬間の価値を最大化させるために、あらゆる方面から思索・打ち手を行うことが不可欠だと。


この本は、星野リゾート社長の星野佳路さんが参考にする本をまとめた『星野リゾートの教科書』で取り上げられています。

そして、星野さんが実践している姿を描き出したのが兄弟本となる『星野リゾートの事件簿』。

『星野リゾートの事件簿』を初読した際、星野さんの組織や事業への見方・動かし方には、ただただ感嘆するしかありませんでした。

しかしながら、『星野リゾートの教科書』に取り上げられていた(星野さんの血肉となった)本を通して、星野さんの頭の中を、断片だとしても理解する一助になりました。


毎日の1秒1秒も、1年間では3153万6000秒。

その1瞬1瞬を真実の瞬間にできるよう、これからも力を尽くしていきたい。


【本の抜粋】
さて、ヤン・カールソンなら、そうした問題をどう解決するか。コミュニケーションを阻む横の障害を排除すること。「部下を指令どおりに動かすために雇われている」中間管理職を、マネジャーから、旅客と市場にじかに接する最前線の従業員のリーダー、支援者に変身させることなどが、カールソンの解決策だ。

最前線の従業員に裁量権を与えることも重要だが、リーダーシップも不可欠だ。
(中略)新しいリーダーシップの武器は、明確で簡潔なビジョンと、人間味のある、すぐれたコミュニケーション能力だ。人間味といっても、軟弱な感傷ではない。カールソンは、新しい経営者を「啓発された独裁者」と呼んでいる。ビジョンの細かい実施内容ではなく、ビジョンそのものに忠実であることが、新しい経営者の条件となる。

人はだれも自分が必要とされているということを知り、感じなければならない。
人はだれも一人の人間として扱われたいと望んでいる。
責任を負う自由を与えれば、人は内に秘めている能力を発揮する。
情報をもたない者は責任を負うことができないが、情報を与えれば責任を負わざるを得ない。

一回十五秒で、一年間に五〇〇〇万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。その五〇〇〇万回の”真実の瞬間”が、結局スカンジナビア航空の成功を左右する。その瞬間こそ私たちが、スカンジナビア航空が再呂の選択だったと顧客に納得させなければならない。
(中略)十五秒の真実の瞬間にスカンジナビア航空を代表に航空券係、客室乗務員、荷物係といった最前線の従業員に、アイデア、決定、対策を実施する責任を委ねることが必要だ。

私たちは、経費とは「悪」であり、つねに最小に切り詰めなければいけないという考えをやめ、競争力を高めるための資源だと考えるように方針を変えた。
(中略)そこで私たちは、資産や経費、業務を詳細に検討して、自問してみた。「はたしてこれはビジネス旅行者の要望に応えるのに必要だろうか」。
(中略)何かが不足していれば、ためらわず補強した。つまり、一つの項目を一〇〇パーセント改善するかわりに、一〇〇の項目を一パーセントずつ改善していくことにしたのだ。

内面からの安心感は、大きな責任にともなう自負心から得られる。
(中略)外面からの安心感は、企業の上層部が与えなければならない。

どんなにすぐれたリーダーによって企業のビジョンが示され、戦略がつくられても、毎日、多くの最前線の従業員によって顧客に質の良いサービスが確実に提供されなければ、企業の成功はない。”真実の瞬間”の積み重ねである。第一線の従業員の質のコントロールと、「顧客を満足させたい」という意欲なくしては、グローバル戦略も偉大なビジョンも張り子のトラでしかないのである。

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