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週末読書メモ104. 『人類の星の時間』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

探検家、音楽家、詩人、皇帝、革命家、山師…多くの無名の人間が坦々と紡ぎつづける歴史の中で、突然に輝く〈星〉となった人物の運命的な瞬間を描く12篇。

歴史の中で、あまりに運命的で儚くも美しい一瞬を切り取ったツヴァイク晩年の傑作。


「人類の星の時間」。

多くの伝記文学と短編、戯曲を書いた筆者のシュテファン・ツヴァイクは言います、この世界の歴史は、無数の坦々たる事象が流れ去る中で、ほんの一瞬、運命の悪戯のような時が稀に産まれ、その一瞬が世界に光を放つと。

ゲーテ、ナポレオン、ドストエフスキーなどの天才が輝きを放った、世界史における運命的な12つの瞬間を凝縮し、描き切ったのが本書となります。


われわれがあらゆる時間について最大の詩人と見なし叙述家として感嘆するところの歴史も、決して絶えまなき創造者であるのではない。「神の、神秘に充ちている仕事場」 ーー 歴史をゲーテは畏敬をもってそう呼んだが ーー の中でもまた、取るにたりないことや平凡なことは無数に多く生じている。

時間を超えてつづく決定が、或る一定の日附の中に、或る人ひとときの中に、しばしばただ一分間の中に圧縮されるそんな劇的な緊密の時間、運命を孕むそんな時間は、個人の人生の中でも歴史の径路の中でも稀にしかない。こんな星の時間 ーー 私がそう名づけるのは、そんな時間は星のように光を放ってそして不易に、無常変転の闇の上に照るからであるが ーー こんな星の時間のいくつかを、私はここに、たがいにきわめて相違している時代と様相との中から挙げてみることをこころみた。

この本の感想を一言では言い表すのは、あまりに難しく…

その運命的な物語、そして、ツヴァイクが紡ぐ言葉の節々。その儚さと美しさに、ただただ息を呑みます。


まさに一つの魔神的な意志の真の目じるしとは常に、それが不可能のことを現実の事実にしてみせることであり、軍事上の天才とは、それが戦争の常道のやり方を無視して、ある一定の瞬間に、試験ずみの手段を排して創意的な思いつきを実行に移すそのやり方においてみとめられる。

強い人々、大胆な人々に運命の力は特につよく迫る。シーザー、アクレサンダー、ナポレオンのような個人に、運命な何年間も下僕のように従順であった。なぜなら運命はつかみがたい要素である運命自身に似ている要素的な力の人間を好むからである。
しかし、あらゆる時の中できわめて稀に、運命はいかにも奇妙な気まぐれから、行き当たりばったりに、いかにも平凡な人間に身をまかせることが往々にしてある。
(中略)偉大さが、つまらない者に身をゆだねるのはほんの束の間だけであり、それを取りにがすと、そんな機会は二度とめぐまれない。

上記は、物語の中で垣間見られるツヴァイクの所管となりますが、歴史を動かす「人類の星の時間」の一瞬は、取り巻く人と世界にとって、果てしない影響を与えることが心に残ります。


その上で、やはり本書の肝は、ツヴァイクの歴史観になるかと思います。

歴史は自然の精神的な鏡として、自然そのものとおなじように、かぎりない、かぞえきれない多様な形をつくりだす。歴史はどんな方法にもとらわれず、どんな法則をも平然と超えてはたらく。歴史は水のように一定の方向に向って流れるかと見えて、またたちまちに、風のゆるやかな偶然の中から雲を作るようにして事件を産む。歴史は、ゆっくりと成長する結晶作用の持つ大きな忍耐によって諸時代を積み重ねてゆくことがたびたびあるが、しかしまた押し迫る大気の諸層を劇的に、ただ一つの閃光へ圧縮することがある。歴史はいつでも形成者であるが、その形成者がほんとうの芸術家として見えてくるのは、そのような天才的凝縮をおこなう諸瞬間においてのみである。なぜなら、無数のエネルギーがわれわれの世界を動かしては居るものの、われわれの世界に劇的ないろいろの形を与えるのは、ただあの稀な爆発的の諸瞬間だけだからである。

改めて思うのは、歴史には、様々な側面があること。

偉大な文豪家のトルストイは、「歴史(世界)とは、一人ひとりの人間の総和によって、形作られる」と言いました。

また、偉大な歴史家のカーは、「歴史とは、歴史家とその事実のあいだの相互作用の絶えまないプロセスであり、現在と過去のあいだの終わりのない対話なのです」と。

両者共に、歴史とは、人、そして、過去から現在に至る事象の総和だと。

ツヴァイクも、それを肯定。その上で強調するのが「人類の星の時間」。

どんな場合においても、世界はそう簡単には動きません。取るにたりないことや平凡なことを、坦々とこなし続けなければならない期間は不可避です。しかしながら、そんな日々の中でも、前を向き続け、歩み続けたならば、ある時、世界が変わる一瞬があることも、また大きな真理。

なぜなら、無数のエネルギーがわれわれの世界を動かしては居るものの、われわれの世界に劇的ないろいろの形を与えるのは、ただあの稀な爆発的の諸瞬間だけだからである。

いつか必ずその瞬間が来る、その希望と意志を失わず、これからも倦まず弛まず歴史を紡いでいきたいです。


【本の抜粋】
われわれがあらゆる時間について最大の詩人と見なし叙述家として感嘆するところの歴史も、決して絶えまなき創造者であるのではない。「神の、神秘に充ちている仕事場」 ーー 歴史をゲーテは畏敬をもってそう呼んだが ーー の中でもまた、取るにたりないことや平凡なことは無数に多く生じている。

要するにどんな緊張のためにも準備の時がなければならず、どの出来事の具体化も、そうなるまでの進展が必要だったからである。一つの国民の中に常に無数の人間が存在してこそ、その中から一人の天才が現われ出るのであり、常に無数の坦々たる世界歴史の時間が流れ去るからこそ、やがていつかほんとうの歴史的な、人類の星の時間というべきひとときが現われ出るのである。

時間を超えてつづく決定が、或る一定の日附の中に、或る人ひとときの中に、しばしばただ一分間の中に圧縮されるそんな劇的な緊密の時間、運命を孕むそんな時間は、個人の人生の中でも歴史の径路の中でも稀にしかない。こんな星の時間 ーー 私がそう名づけるのは、そんな時間は星のように光を放ってそして不易に、無常変転の闇の上に照るからであるが ーー こんな星の時間のいくつかを、私はここに、たがいにきわめて相違している時代と様相との中から挙げてみることをこころみた。

まさに一つの魔神的な意志の真の目じるしとは常に、それが不可能のことを現実の事実にしてみせることであり、軍事上の天才とは、それが戦争の常道のやり方を無視して、ある一定の瞬間に、試験ずみの手段を排して創意的な思いつきを実行に移すそのやり方においてみとめられる。

平生の彼が感じるのとは違う不思議な力である一つの昂揚、一つの感激が、集結して一瞬間の中に爆発し、貧弱な、もの好きな詩人・音楽家である彼をつかんで運び去り、彼自身の尺度を何十万倍も超えてはこび上げ、彼を一つの打上花火のように ーー 一瞬間だけの光と閃光として ーー 星々までとどくほどに投げ上げた。

強い人々、大胆な人々に運命の力は特につよく迫る。シーザー、アクレサンダー、ナポレオンのような個人に、運命な何年間も下僕のように従順であった。なぜなら運命はつかみがたい要素である運命自身に似ている要素的な力の人間を好むからである。
しかし、あらゆる時の中できわめて稀に、運命はいかにも奇妙な気まぐれから、行き当たりばったりに、いかにも平凡な人間に身をまかせることが往々にしてある。
(中略)偉大さが、つまらない者に身をゆだねるのはほんの束の間だけであり、それを取りにがすと、そんな機会は二度とめぐまれない。

歴史は自然の精神的な鏡として、自然そのものとおなじように、かぎりない、かぞえきれない多様な形をつくりだす。歴史はどんな方法にもとらわれず、どんな法則をも平然と超えてはたらく。歴史は水のように一定の方向に向って流れるかと見えて、またたちまちに、風のゆるやかな偶然の中から雲を作るようにして事件を産む。歴史は、ゆっくりと成長する結晶作用の持つ大きな忍耐によって諸時代を積み重ねてゆくことがたびたびあるが、しかしまた押し迫る大気の諸層を劇的に、ただ一つの閃光へ圧縮することがある。歴史はいつでも形成者であるが、その形成者がほんとうの芸術家として見えてくるのは、そのような天才的凝縮をおこなう諸瞬間においてのみである。なぜなら、無数のエネルギーがわれわれの世界を動かしては居るものの、われわれの世界に劇的ないろいろの形を与えるのは、ただあの稀な爆発的の諸瞬間だけだからである。

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