見出し画像

RZP Book Talk Vol.11 『怒りについて』セネカ 著 | 岩波書店 刊

怒りは二日酔いに似ている・・・

二日酔い。進まない思考、重い頭、アルコール臭のする息・・・。しかし、一番辛いのは、「またやってしまった」という自己嫌悪ではないでしょうか?今日は特別な日、疲れた、嫌なことがあった―色々な言い訳ができます。そして唐突に思われるかもしれませんが、もう1つ、ついやってしまって後悔するもの、それは「怒り」ではないでしょうか?相手のため、正義の必要悪、限界を超えるため、疲れ、空腹、嫌なことをされた・・・怒っている間は我を忘れ、言い訳が成り立つのも二日酔いとそっくりです。

怒りの問題は個人的で社会的

心理学、神経科学で怒りと敵意は重要なテーマとして扱われてきた恩恵として、私たちは怒りの予防、鎮静には深呼吸や散歩が効果的であると知っています。

そして、怒りの問題は歴史的、政治的な問題として、古代から哲学者や宗教家が取り扱ってきたテーマでもあります。君主が怒りに任せて、安易に敵の人間性を抹殺することは、統治者の行動として常に大きなリスクを孕んでいるからです。

カリグラ、ネロ、アグリッピーナ――ローマでも名高い暴君達に挟まれ、血なまぐさい治世を目撃してきた哲学者セネカが書いた『怒りについて』は、怒りと制御について、ユニークな考察を残しており、現代を生きる私達もその恩恵を受けることができます。

哲学的テーマとしての怒り

漫画家のモクタン・アンジェロさんは怒りについて、本書を推薦し、次のように語ってくれました。

私は普段は落ち着いていると言われます。しかし、ある時、色々な困難が重なり、イライラが止まらない時期がありました。私は哲学が好きです。怒りの問題は普遍的なので、哲学者が回答を出しているに違いないと考え、本書を見つけました。

怒りは火、ワインは怒りを鎮めない、怒ったら鏡で自分を見る、いつか人はみんな死ぬと考える――など。本書の怒りの解釈とアプローチはユニークです。必ずしも即効性があるものばかりではありませんが、長い目で見ると怒りを知り、鎮めるのにとても役に立ちます。

私は本書の怒りの解釈を基に『レオノーラの猛獣刑』という漫画を出版しました。怒りの問題が大規模化するのが戦争や差別です。私の祖国のブラジルは移民国家なので、国家内は寛容です。しかし、被植民地だった歴史や、政府によるアンチアメリカ的プロパガンダにより、対外的に不寛容な面もあります。

怒りや敵意は心理学的で個人的なテーマですが、哲学では歴史的、社会的なテーマとして扱われてきました。『レオノーラの猛獣刑』では、当初は自分を裏切った知人にさえ情をかける善良な主人公が、非道な人間を誅することに捕らわれ、怒りに支配されていく、自分の好きなものを守るという感情が怒りに変容していく過程と危険性を描きました。

恐怖、無知、偏見―これらは社会的な怒りの元となるような感情ですが、これらの感情に個人でできることは実は色々あること。怒りが身を亡ぼすこと。哲学には怒りを制御する知恵があること。怒りはあくまで自分の選択の結果であること。怒りに任せるのは無益で賢明な選択ではないこと。自分の無力を知りながらも、周りのせいにしないこと。怒りに頼らず、賢い選択をすること。いずれも困難ですが、社会や政治的な危機を乗り越えるために、人間にできる数少ない良い選択でもあるという哲学的真実を、より効果的に伝える手段として、私はフィクションを選びました。

争いや差別のない理想の社会に貢献できるように、人間の負の感情のようなものをテーマにして絵を描いていきたいと思っています。今は禅語を漫画にしたものを作っていて、次は恐怖をテーマにする予定です。

「正義中毒者」

コロナ禍では自粛警察という言葉が登場し、自粛自重が社会的な支持を得ました。営業する店への非難、他県ナンバー車へのいやがらせ……。怒りを二日酔いにたとえたのはただの冗談ではありません。人の脳は、他人に正義の制裁を加えると、快楽物質のドーパミンを放出するようにできています。ドーパミンは強い刺激をもたらすため、常に罰する対象を求めるようになるか、酒、たばこなどに代償をもとめるようになります。

脳科学者の中野信子氏は著作『人は、なぜ他人を許せないのか?』で、刺激としての正義を無自覚に求め続けるようになった人を「正義中毒者」と述べています。怒りは些細でありつつ、腐食性があり、その選択を繰り返せばアルコールやたばこ同様に中毒になり人生を蝕みます。怒りたいから怒る、を繰り返す結果は、多くの人にとって、考えているよりはるかに始末が悪いのではないでしょうか?

私達が大切にしているのもまた怒り

一方で、セネカは怒りを理性的な「選択」であると論じています。奴隷制、人種差別、その他の世界的な不正、人間の世界の恐ろしい真実にさえも激怒しない世界に住みたいでしょうか?怒りは社会的感情です。私達に世界の課題を教えてくれるものでもあります。怒りは火、どのように賢い選択にできるのか、怒りの問題を抱える人、ストレスを自覚する人、理不尽な事実に激怒する人は是非一読してみてください。

↓↓↓Book Talkに関心のある方はこちらからグループ参加できます。聞き専も歓迎↓↓↓

https://www.facebook.com/groups/2491804454444580

【↓↓↓今回のスピーカーMokutan Angeloさんの活動↓↓↓】

https://www.nippon.com/en/authordata/mokutan-angelo/?fbclid=IwAR0ksVKyfGe55WbUW54kawdyzhNVdToJPlkh66cr_2IDw7hLJ32Db_Ev18I

https://www.facebook.com/angelo.levy/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?