さとうはな

短歌と詩

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やわらかにつぶす 

やわらかにつぶす              さとうはな  屋上より見下ろす街よ ひと冬は手負いの草食獣のさみしさ 夜のシャボン玉は怖いねふたりきりたましい吐き出すよう息つけば いちにちを読書のままに過ごす日の椅子の影にも育つ感情 対岸という遥かさをつなぐゆえすべての橋に名はつけられて サーカスの訪れ、そしてひと晩に降る雪の嵩ラジオは告げる 金にきん 銀にはぎんのひかりあり棚の奥から冷える楽器庫 ともすれば武器にさえなる真鍮の楽器をきみはするどく鳴らせ 祈らないことが増えゆく

    • だまし絵

      だまし絵 噴水に降る春時雨 ひかりとも影ともつかず瞬いている ぬすまれた傘はどこかの書店にてまた別の手に開かれるころ シロツメを摘みながら行く早春のふくらはぎにも触れる草原 Kneippのソルトを溶けば春の夜のこのバスタブも海のはじまり トンネルに再びもぐる地下鉄よ ひかりはひかりのまま運ばれて 駅前の生花店には黄水仙ならび異国の水辺のにおい それぞれの楽器ケースを抱え持ち春の車両に出会うひとびと だまし絵にだまされたいね蔓草の飾り文字濃き洋書を開く 『置き場』第3号 20

      • 未来2024年4月号詠草

        どこまでを声はゆくのか冬の日のラスコーリニコフただうつむいて 日々もまた旅であることふかぶかと紺のマフラー巻いて駅へと 指をかけきみが引き出す全集のあおい背表紙あれが金星 ろうそくの明かりを、または感傷をとどめるためにカーテンを引く 怒りとは水晶のよう砕け散るときがいっとう美しかった 朝霧は深くただよう早足にわたしが森を抜け出たあとも やわらかな冬芽を露にひからせてことばにはまだ足りない木々だ ふたりとも生まれなかった世界線の話をあおい林檎むきつつ 夢のなか桃のにおいがすると

        • 皆既日蝕

          4月8日、北米で皆既日蝕がありました。去年末から話題になっていて、この日蝕に合わせて学校も休みになったほど。午後の3時が日蝕のピークなので、運が悪い子はスクールバスに乗っていて見逃しちゃうからというのが理由です。 オンタリオ州ではナイアガラの滝付近が一番観測に適しているということで、ナイアガラは観光客が押し寄せるという予報から、緊急事態宣言も出ました。 わたしはトロントの家で、庭で見ることにしました。 あいにく当日は曇り空。庭にござを敷いて、本を読んだり犬を遊ばせたりしながら

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          冬至祭

          冬至祭                    さとうはな 北の国の冬は日の落ちるのが早い 一年でいちばん夜が長い日、学校も商店街も工場も役場もおやすみで 街中はランタンやひいらぎ、たくさんの花でかざられる 街外れにあるみずうみからのぼる霧はしずかに流れ、街全体を満たす まだ正午を少し過ぎただけだけれど 陽が傾き、もう薄暗い広場に 出店が立ち 篝火は焚かれ 音楽家たちが冬至祭の音楽を奏ではじめる 広場には人々が集まってくる (ほら見てごらんあの子だ)(冬を終わらせる)(春を