さとうはな

短歌と詩

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やわらかにつぶす 

やわらかにつぶす              さとうはな  屋上より見下ろす街よ ひと冬は手負いの草食獣のさみしさ 夜のシャボン玉は怖いねふたりきりたましい吐き出…

さとうはな
1か月前
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『未来』2024年5月号詠草

雪解けの水たまり踏むひとときに空はわたしに近くあること 冬って、とあなたは言ってふるさとを思い出すのかまた口ごもる みずからを追うように降る雪の日のわたしは何のレ…

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だまし絵

だまし絵 噴水に降る春時雨 ひかりとも影ともつかず瞬いている ぬすまれた傘はどこかの書店にてまた別の手に開かれるころ シロツメを摘みながら行く早春のふくらはぎにも…

さとうはな
3週間前
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未来2024年4月号詠草

どこまでを声はゆくのか冬の日のラスコーリニコフただうつむいて 日々もまた旅であることふかぶかと紺のマフラー巻いて駅へと 指をかけきみが引き出す全集のあおい背表紙あ…

さとうはな
1か月前
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皆既日蝕

4月8日、北米で皆既日蝕がありました。去年末から話題になっていて、この日蝕に合わせて学校も休みになったほど。午後の3時が日蝕のピークなので、運が悪い子はスクール…

さとうはな
1か月前
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冬至祭

冬至祭                    さとうはな 北の国の冬は日の落ちるのが早い 一年でいちばん夜が長い日、学校も商店街も工場も役場もおやすみで 街中はラ…

さとうはな
1か月前
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やわらかにつぶす 

やわらかにつぶす 

やわらかにつぶす              さとうはな 

屋上より見下ろす街よ ひと冬は手負いの草食獣のさみしさ
夜のシャボン玉は怖いねふたりきりたましい吐き出すよう息つけば
いちにちを読書のままに過ごす日の椅子の影にも育つ感情
対岸という遥かさをつなぐゆえすべての橋に名はつけられて
サーカスの訪れ、そしてひと晩に降る雪の嵩ラジオは告げる
金にきん 銀にはぎんのひかりあり棚の奥から冷える楽器庫

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『未来』2024年5月号詠草

『未来』2024年5月号詠草

雪解けの水たまり踏むひとときに空はわたしに近くあること
冬って、とあなたは言ってふるさとを思い出すのかまた口ごもる
みずからを追うように降る雪の日のわたしは何のレプリカだろう
夕暮れの坂のぼりつつ冬に咲く花のなまえをしりとりしよう
夜の雨 記憶のなかに幾千の旗ひるがえり夜の雨降る
浴室のしずくを拭い沈黙には色も温度もあるのだと言う
冬の詩集ひらけば遠いあなたからはじまってゆく山火事のこと
一月を過

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だまし絵

だまし絵

だまし絵
噴水に降る春時雨 ひかりとも影ともつかず瞬いている
ぬすまれた傘はどこかの書店にてまた別の手に開かれるころ
シロツメを摘みながら行く早春のふくらはぎにも触れる草原
Kneippのソルトを溶けば春の夜のこのバスタブも海のはじまり
トンネルに再びもぐる地下鉄よ ひかりはひかりのまま運ばれて
駅前の生花店には黄水仙ならび異国の水辺のにおい
それぞれの楽器ケースを抱え持ち春の車両に出会うひとびと

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未来2024年4月号詠草

未来2024年4月号詠草

どこまでを声はゆくのか冬の日のラスコーリニコフただうつむいて
日々もまた旅であることふかぶかと紺のマフラー巻いて駅へと
指をかけきみが引き出す全集のあおい背表紙あれが金星
ろうそくの明かりを、または感傷をとどめるためにカーテンを引く
怒りとは水晶のよう砕け散るときがいっとう美しかった
朝霧は深くただよう早足にわたしが森を抜け出たあとも
やわらかな冬芽を露にひからせてことばにはまだ足りない木々だ

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皆既日蝕

皆既日蝕

4月8日、北米で皆既日蝕がありました。去年末から話題になっていて、この日蝕に合わせて学校も休みになったほど。午後の3時が日蝕のピークなので、運が悪い子はスクールバスに乗っていて見逃しちゃうからというのが理由です。
オンタリオ州ではナイアガラの滝付近が一番観測に適しているということで、ナイアガラは観光客が押し寄せるという予報から、緊急事態宣言も出ました。
わたしはトロントの家で、庭で見ることにしまし

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冬至祭

冬至祭

冬至祭                    さとうはな

北の国の冬は日の落ちるのが早い
一年でいちばん夜が長い日、学校も商店街も工場も役場もおやすみで
街中はランタンやひいらぎ、たくさんの花でかざられる

街外れにあるみずうみからのぼる霧はしずかに流れ、街全体を満たす
まだ正午を少し過ぎただけだけれど 陽が傾き、もう薄暗い広場に
出店が立ち 篝火は焚かれ 音楽家たちが冬至祭の音楽を奏ではじめる

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