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『未来』2024年5月号詠草
雪解けの水たまり踏むひとときに空はわたしに近くあること
冬って、とあなたは言ってふるさとを思い出すのかまた口ごもる
みずからを追うように降る雪の日のわたしは何のレプリカだろう
夕暮れの坂のぼりつつ冬に咲く花のなまえをしりとりしよう
夜の雨 記憶のなかに幾千の旗ひるがえり夜の雨降る
浴室のしずくを拭い沈黙には色も温度もあるのだと言う
冬の詩集ひらけば遠いあなたからはじまってゆく山火事のこと
一月を過
未来2024年4月号詠草
どこまでを声はゆくのか冬の日のラスコーリニコフただうつむいて
日々もまた旅であることふかぶかと紺のマフラー巻いて駅へと
指をかけきみが引き出す全集のあおい背表紙あれが金星
ろうそくの明かりを、または感傷をとどめるためにカーテンを引く
怒りとは水晶のよう砕け散るときがいっとう美しかった
朝霧は深くただよう早足にわたしが森を抜け出たあとも
やわらかな冬芽を露にひからせてことばにはまだ足りない木々だ
ふ