見出し画像

If they don’t appreciate you, they don’t deserve you.

週に一日、大学で時事英語を教えています。
4月から新年度の授業が始まったので、英語脳(?)になることが多めになっています。

タイトルの言葉は、「彼らがあなたに感謝しないなら、それは彼らがあなたを迎え入れるに値しないということだ」というのがオーソドックスな翻訳でしょうか。「彼ら」は「組織」に置き換えた方が分かりやすいかもしれませんね。

誰が最初に述べたのか確認できないのですが、もしかするとアメリカの歌手メアリー・J. ブライジさんかもしれません。

この言葉が頭に浮かんだのは、香港で公務員の辞職が止まらないというニュースを目にしたためです。以前は安定した仕事として人気が高かった公務員が、すっかり不人気になっているとのこと。その背景は日本にも通じます。


年間1万人以上が去る

アメリカ政府系の放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が4月15日に伝えたところによれば、香港では2022年度に1万人を超える公務員が辞職したということです。この数字には定年退職者も含まれていますが、トータルで過去最多

こうした傾向が続いている結果、政府の各部門で定員割れが発生していて、市民が行政手続きのために窓口に行くと、人で不足ゆえに長蛇の列に並ばされることが常態化しているそうです。

とりわけ、警察は定員の19%も不足している状態。けっこう深刻だなと驚くと同時に、納得もします。警察組織から人が去っているのは、香港の公務員全体での辞職増加を象徴しているといえるからです。
すなわち、公務員離れが進んでいる最大の背景は、「香港国家安全維持法」施行など香港の「中国化」が急速に進む中、「言論を抑圧する側」に身を置くことに耐えられない人が増えているためです。その最たるものが、近年、抗議集会に催涙ガスを放ちまくり、参加者たちを棍棒で殴りつけて連行してきた警察官たちなのです。

良心の呵責に苦しんでいる警察官が、少なくない。そう知ると、複雑な気持ちになります。

実際、公務員全体で辞職の理由としては「国外に移住」が最も多いという調べもあり、もはや香港脱出の様相を呈しています。

教師たちも

公務員には公立校の教師たちも含まれています。
学校現場で中国から押しつけられた「愛国教育」という名の中国共産党礼賛を子供たちに教えることに、やはり良心の呵責に苦しむ教師が多いのでしょう。昨年度、教壇から去った人は前の年度から25%も増えたという統計も出ています。

公務員に対する監視

一方、例えば省庁内の事務職など、市民に対して言論統制を強いるポジションにはいない公務員たちにとっても、職場環境は急速に悪化しています。
香港政府(というかその背後にいる習近平政権)が2020年から公務員たちに対して「中国に対する忠誠の宣誓」を要求するという「踏み絵」制度を導入したことが大きく影響しています。

これに宣誓すると、SNSに政府に批判的な投稿をすることも控えると約束したとみなされ、公務員は何も言えなくなります。それにとどまらず、過去に民主派への賛意を示した、あるいは民主化要求の集会に参加した、といった言動を調べ上げられて昇進に響くのではないかという不安が渦巻くようになりました。

では宣誓なんぞしなければいい…ではもちろんなく、それは解雇をも覚悟しての拒絶を意味します。まさに「踏み絵」。
実際、この制度が導入されてから宣誓を拒否した公務員はこれまで535人いて、辞職・契約更新せず・雇止めなど形態はいろいろではあるもの、全員、職場を去ったそうです。

公務員であっても思想や感情は人それぞれです。そうした自由をも認めない、果ては秘密警察的な動きで言動を監視されるようなら、その職場からは去った方が幸せなのではないか…ということで、もう一度タイトル。
If they don’t appreciate you, they don’t deserve you.

日本も他人事では全くない

ただ、ここで「ああ、香港の公務員たちは辛いね」で終わるのも話が違うと言えるでしょう。日本でも、近年、公務員は不人気の職となっているからです。

ここから先は

559字
この記事のみ ¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?