見出し画像

「友好」45年に冷水浴びせる邦人拘束

日本と中国の平和友好条約が締結されて45年となるのを記念したレセプションが、10月23日、都内で開催されました。これに合わせて岸田首相と李強首相(国務総理)がメッセージを交換。
岸田首相は「日中両国は様々な協力の可能性とともに多くの課題や懸案にも直面していますが、先人達の尽力に思いを致しながら、大局的観点から『建設的かつ安定的な日中関係』の構築に向けて共に取り組んでいくことが重要です」と呼びかけました。
一方の李強首相も「中日両国の益々の繁栄と両国人民の世代友好をお祈りします」と文字通り友好的な姿勢を示しました。

45年前、1978年の中国といえば、改革開放が始まった年です。人々はまだ人民服姿でした。以下の「中国網日本語版」では当時の写真が載せられていて、興味深いです。

話を現在に戻しますと、日中両国は実に「多くの課題や懸案にも直面」しているというか、懸案だらけです。中でも深刻なのは、中国で邦人が拘束される事態が後を絶たないことです。
10月19日、アステラス製薬の50代の社員が中国当局にスパイ容疑で逮捕されたことが分かりました。報道によれば、この人は中国での駐在歴が約20年にも及び、中国政府も含めて豊富な人脈を築いていたそうです。しかし、今年3月に任期を終えて帰国する直前に北京で拘束され、調べが続いていました。

外務省のまとめでは、2015年以降、中国でこうしたスパイ容疑などで拘束された邦人は17人にのぼります。これは2014年に習近平政権が「反スパイ法」を定義したことが大きく影響しています。「国家安全」を掲げる同法ですが、何がスパイ行為に該当するのかが曖昧で、証拠もないことが珍しくなく、国家安全部の匙加減ひとつで拘束されてしまうという批判が絶えません。また、アステラス製薬の社員のように、「中国通」であるほど拘束のリスクに直面するという側面もあります。

しかも、今年7月にはその「反スパイ法」が改正(改悪というべきか)され、取り締まる側の権限がさらに強化されました。日本を含め、外国企業は中国でビジネスを展開することの再検討を迫られています。外資を誘致する立場の商務部は、7月の「反スパイ法」改正に合わせて日本や欧米の企業などを対象に説明会を開いたものの、やはり「何をしたらレッドカードなのか」という具体例は示されなかったそうです。おそらく商務部も分からないのでしょう。

中国経済が変調をきたしているというのに、外資が逃げ出しかねないほど不安を高めてどうするの、とツッコミを入れたくなります。

覇権を…

話は少し広がりますが、日中平和友好条約の第二条は次のように謳っています。

両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_heiwa.html

アジア・太平洋地域などで覇権を求めるべきでない…
中国はまるで順守していないではないか、とまたツッコミたくなってしまいます。この条約を念頭に置いているわけではないでしょうが、中国共産党の幹部らが何かにつけて「中国は覇権を求めない」と述べているのは確かです。しかし南シナ海の大部分を自分の領海だと一方的に主張し、人工島などを建造して海警局などの船が東南アジア諸国の漁民らを妨害するその姿は、ザ・覇権というものです。

先日も、南シナ海のスプラトリー諸島(中国名「南沙諸島」)の海域で中国海警局の船がフィリピン軍の輸送船に危険な接近を繰り返し、あげくに体当たりしました。フィリピン軍は22日、その際の映像を公開していて、中国海警局の危険な航行ぶりは一目瞭然です。

新しい両国関係とは?

李強首相が23日のレセプションに寄せたメッセージの最後のほうに、こういう一節があります。

「新しい時代の要請に相応しい中日関係の構築に取り組んでいきたいと思います」

「新しい時代の要請に相応しい中日関係」とは、どういう関係なのでしょうか。李強首相は経済運営の責任者なだけに、日本企業にとってもポジティブなものだと信じたいです。

ただ、中国の「反スパイ法」の不透明さや海洋における振る舞いを踏まえると、不安もよぎります。つまり、1978年とは比べ物にならないほど自分たちは強大になった「新しい時代」において、昔のように「平和友好」を唱えるだけではなく、大国・中国にとっての「相応しい」対日関係が別にあるのでは…邪推ですかね。

友好のレセプションに関する文章としては、なんともシニカルな内容となってしまいました。中国がアステラス製薬の社員を早期に解放すれば、友好ムードも回復しようというものですが、さて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?