見出し画像

投資追想

はるか昔々の話。

高校の帰りにガールフレンドと新宿に映画を観に行った。そのついでに今はなきコタニというレコード店に入った。そこそこ広い店内の中央にモニターが置いてあったのだが、この日はテレビニュースを流していた。
「日経平均が初めて1万円を越えました。」
そう伝えていた。

食い入る様に画面を見ていた自分に対して彼女は何を真剣に見ているのか、このニュースにどんな意味があるのかを聞いてきた。うまく説明できなかった。「でもすごいんだよ」と言っていた。
なんとくなく一つの未来に到達したような感覚がその時あった。

株式投資をしてみようか、これからは面白いんじゃないのか?
まずは何がどうなってるのか、調べよう。
とは言ってもインターネットもない時代、身近で株をやっている人間に話を聞くぐらいしか策はない。

父は博打打ちだった。大概のギャンブルは全てやっていた。
当然、株についても詳しい。何しろ家や会社にしょっちゅう証券会社の営業マンが入り浸っているぐらい。
その日から株の指南役は父だった。今ではできるかどうかは知らないが、とりあえず学生ながら自分の投資用口座を作った。ペットの名前で銀行口座が作れる時代だったから寛容だったのだろう。

次にどの会社に投資するかだ。
種金は100万円。様々なイベントをやったり、あちこちのアニメショップや専門店で同人誌を売って稼いだ虎の子である。目減りさせてはいけない。
目の色変えてお金のことを考え始めている自分に父は言った。
「もっと楽な気持ちで、自分の好きな会社、株式を持っていて楽しいと思える会社を選んだ方がいい」株主特典でいろんなものが貰えるということもこの時知った。

生まれて初めて買った株式は「大同特殊鋼」という会社だった。

知らない社名だった。
父の「王子の工場で戦車作ってたんだ。あと機関銃の弾丸」の一言で、当時軍事マニアだった自分は買ってしまった。
なんかかっこいいではないか、軍需産業。
ちなみに真偽のほどは定かではない。
実際はそればかりでなく、様々な鋼材、部品などを作るスーパーグローバル企業なのだけれど。

買値は確か570円だったと思う。
株を買うとどんな会社か当然気になる。そして半期毎に株主に送られてくる事業報告書を読むのが楽しくなった。株主の議決権行使書なんていうものも初めて見た。何と言ってもその後に送られてくる配当金。これが嬉しい。学生にして不労所得の旨味を知ってしまった瞬間だった。

数ヶ月後、570円で買った株は1600円になっていた。
父は売るタイミング、現金化するタイミングも大事だと言っていた。
なので、ここで一度売却、何もしないで100万円が儲かってしまった。
驚いた。
これが株の魅力であると同時に恐ろしいところでもある。
次もまた上手くいくとは限らない。

随分と株式投資も長いことやっているが、この売り時はいつも肝に命じている。実際、父は売り時を間違えて、先祖代々の土地を手放さねばならなかった。
あんなに自分には忠告していたのに。

そして今も最初に買った大同特殊鋼は売ったり買ったりしている。
この記事を書いている現在、4975円。
もう少し下がったら買い時かな。
今では航空機用エンジンシャフト、携帯電話やHDDドライブにおいても世界的シェアを誇る大企業。これからも盛業で、歴史を紡いでいくことを祈るばかりである。

よろしければサポートお願い致します。旅行記などを書く際の路銀の足しにさせて頂きます。