映画感想文「愛にイナズマ」大嫌いで愛おしい家族の物語。松岡茉優の快演が素晴らしい
大嫌いなはずなのに。
それでも思い出すと胸がいっぱいになる、「あの店で家族でよくご飯食べたよね」の場面。
なぜだろう。家族で外出した思い出は鮮明に記憶に残ってる。
子供心に、それは特別なよそゆきの時間だったんだろう。
松岡茉優演じる折村花子は映画監督の卵だ。苦節の末にやっと、自分で脚本を書いた家族の物語が映画化されることになり、燃えていた。
しかし、業界あるある、敏腕プロデューサーと助監督にいいように翻弄された挙句、企画も奪われてしまう。
ちなみに、これを演じるMEGUMIと三浦貴大が二人とも本当に心底嫌なやつで、それが後半の説得力に効いてくる。
怒りに燃える花子は、彼女の夢を応援してくれる空気は読めないけど純粋な青年(窪田正孝)に背中を押され、家族の物語をもう一度綴るため、10年以上疎遠にしていた実家に帰る。
そこで二人の兄(池松壮亮、若松竜也)も集まり明かされる、幼い頃に家を出て行った母の真実、そして当時父(佐藤浩市)が荒れ狂っていた理由。
これがなんていうか、泣ける。ありがちな話なのに俳優たちの演技が絶妙で心震える。いや、ありがちな話だから泣けるのかも。
子供とうまく向き合えない弱気な父も、「俺、長男だから」が口癖の池松壮亮と、心優しく弱虫の若松竜也の兄二人も、世の中をうまく立ち回れない花子もみんな、ダサくてかっこ悪い。
いかにもありそうな物語は、情けなくてまるでコメディで、泣き笑いな感じに愛おしい。
家族の物語はいつだって心震わす。そんな震えを感じたい人向きの映画。
(余談だが‥)一瞬登場する脇役に至るまで、仲野太賀、趣里、北村有起哉、など豪華な俳優陣が出演。俳優たちの石井裕也監督への信頼度が垣間見えて興味深い。
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