川崎_01前篇

『創造的な習慣』川崎晋 前篇

カワサキファクトリー川崎晋(かわさき・すすむ)さんは、構造的に非常に美しいシステマチックなアナログゲームを得意とし、長い創作歴の中でいつくも素晴らしい作品を発表されてきました。海外出版社からのリリースについても日本のアナログゲームシーンでは先駆けであり、いまもなお知的で刺激的な作品を生み出し続けるアナログゲームデザイナーです。

主な作品リスト
Tenplus』『R-Eco』 『グラグラカンパニー』『カウントダウン』 『カルタゴの貿易商たち』 『ルールの達』 『クイズいいセン行きまSHOW!』 『賭博英雄伝セブン』 『ダチョウサーカス』 『ギシンアンキノトウ』 『ローマの執政官』 『TRICK OF SPY』他多数

優れた作品を創作し続けているアナログゲームのデザイナーに対して、Saashi & Saashi が定型的な質問を用意し、それに回答してもらうという、このインタビュー企画『創造的な習慣〜アナログゲームデザイナーはいかにしてクリエイトするのか』。

数学的な思考と経験によって培われた揺るぎのない川崎さんの定見は、ゲームデザイナーを志す人にとって有用な言葉に満ちています。日常のありとあらゆるシーンをゲーム的なメカニズムとして解剖し再構築するその眼識には、すべてのデザイナーの刺激になりうるクリエイターとしての感性と情熱、そして凄みが含まれています。ロングインタビューを敢行してまとめた全記事を三分割し、前篇をここにお届けします。(中篇後篇はこちら)


創造のスタート

── ゲームデザインという作業は、川崎さんの中で具体的にはどうやって始まるのでしょうか。

川崎 活動の前期と中期と現在とでは、結構変わってきているところもあるんです。13、4年前の頃には本当にガチガチのシステム派で、自分でもそれを標榜していたんですけど、「数字」とか「形」とかが持つ、そのままの性質をゲームに活かすということで。ゲーム的にはなるべく特殊な効果などがなくて、数字自体が効果を持っているというようなものを目指しています。あとは「色が揃って気持ちが良い」とか「形が揃って楽しい」という誰もが感じられるおもしろさをゲームに落とし込みたいなと考えています。

── 川崎さんのお作りになるゲームには、たしかにそういった美学が反映されていますね。

川崎 たとえばカードを4つに色分けして、4色あることでバランスが良くなっていて、もし3色にしちゃうとゲームのバランスが変わってきてしまうという感じのもの。なるべくマテリアルがシンプルで、小さなコンポーネントで、赤、青、黄、緑、色それぞれには能力の差はないというフォーマットの中で作っていきたいと思っていました。そして「自然法則の発見」をベースにしたいというのがあって、それはずっと変わらず、ぼくの中で芯としてあるんですけど。

── ゲーム作りにおける「自然法則の発見」というのは、どういうことを指しているのですか。

川崎 日常生活で、自分が自然に行なっていること、たとえば人間同士の連絡の手段とか、誰かの動作を観察していてわかるようなことです。「これをこうするとこうなる」という発見みたいなものをなるべくメモしておいて、あとで「メカニクスにできないか」という感じですね。ストックしておいたものが急にぼくの中で結びつくんですよ。

── それは川崎さんが、おもしろい動作や、興味深いシーンを目にした瞬間に「これをゲームにしたらどうかな?」と考え始めるということですか。

川崎 そうです。たとえば、エレベーターに乗るとして、定員があるので早く乗ったほうが良いのですが、あんまり早く乗ると、出る時には最後になっちゃいますよね。急いで降りたい時には、一番最後にエレベーターに乗り込んだほうが一番早く出れますよ。でもあんまりゆっくり乗ろうとすると、定員オーバーになって乗れなくなってしまうかもしれない。そのリスクを考えながらいかに早めに乗り込むか、というのは「これはもうゲームだな」ということです。

── 日常生活で垣間見える動きの中から、ゲーム的要素を抽出していくのですね。

川崎 自分が作ったゲームで、『ダチョウサーカス』というものがあります。ダチョウ倶楽部の「俺がやる、俺がやる、どうぞどうぞ」というギャグがあって、あれはお決まりのパターンで最後にやる人が決まっていますけど、それが決まってない中で「やるよ、やるよ」と言い合って、いつ「どうぞどうぞ」と他人に言われるかわからないなら駆け引きとしてすごくおもしろいなと思ったんですね。それであのゲームを作ったんです。

── 日常の中にある「ゲーム性」の在りかを常々そういう目で探していらっしゃるわけですか。

川崎 テレビを見ても、映画を見ても、日常生活の中で目にするいろんな動作や出来事のジレンマを、どうにかゲームにしていきたいという想いがありますね。ちょっとした病気ですね。知らない街を歩いていても街路のタイルを眺めて「この並び方は良いな。隣接している具合が程良いな」とか考えてますよ。

── 歩いていて目に入る情報が、ことごとくゲーム作りの始まりになる可能性を含んでいるんですね。

川崎 本職の仕事ではパズルを作っていますので、その方面の思考も結構活かせるんですよ。パズル作りでは数学的な法則を利用して、「絶対にこれしか答えはない」ということばかり考えていますからね。ゲームは答えをひとつに決めないという違いはあるんですが、根底にはまず仕組みがあって、その仕組みを考えることが楽しいんです。

── それは川崎さんのご活動の前期、中期、後期を通しての一貫したお考えですか。

川崎 一貫しての考えですね。

── パズルを作っておられることも影響しているのかもしれないですけれども、川崎さんのゲームは洗練されつつも、決して難しかったり、ややこしい性質のゲーム性ではありませんね。

川崎 「ゲーマーのためのゲーム」というのを実はあんまり作りたいとは思っていないんですよ。ゲームを知らない友人と遊んだりする時には、ゲーマー向けに作られたゲームは「おもしろいけど、ちょっとややこしい」と思われてしまうと考えていて、やはりゲーマーが好むものと、それを趣味にしていない人との感覚とはかなり違うんですよね。

── ゲーム的な素材を発見するぞというお気持ちで日常生活を送っていらっしゃると、かなりたくさんのゲームの種が見つかると思いますが、それらのアイデアのひとつを「さぁ、これをゲームにしよう」と決心するのは、どういったタイミングなのでしょうか。

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