表紙_中篇_林300

『創造的な習慣』林 尚志 中篇

OKAZU brand を2007年に立ち上げて以来、日本のアナログゲームシーンを引っ張ってこられた林尚志(はやし・ひさし)さんは、いまや海外の出版社からも数多くのゲームをリリースされている日本を代表するアナログゲームデザイナーです。

主な作品リスト
ひも電』『EKIDEN』『Trick of the Rails』 『Trains』『デカスロン』 『セイルトゥインディア』『ISARIBI/漁火』『Rolling Japan』『ミネルウァ』『ゴー・ダッ・チーズ』『はんか通骨董市』『横濱紳商伝』『ジャングリラ』他多数

優れた作品を創作し続けているアナログゲームのデザイナーに対して、Saashi & Saashi が定型的な質問を用意し、それに回答してもらうという、このインタビュー企画『創造的な習慣〜アナログゲームデザイナーはいかにしてクリエイトするのか』においてまず初めにお話をお伺いしたかったのが林尚志さんでした。

緻密に練りこまれた大きなスケールのボードゲームから、遊び心に溢れた小さなゲームまでを手掛けるそのクリエイティヴィティは、林さんのどういったところから生み出されているのか。ロングインタビュー記事の中篇をお届けします。(前篇後篇はこちら)


テストプレイ

── テストプレイについてお訊きします。とりあえずの形が整った段階では、他人を交えず、まずはご自身の1人プレイでゲームを試してみるのでしょうか。

 ぼくはテストプレイの1人回しはしないです。絶対、人にやってもらいます。1人回しは‥‥まあ、やれたほうが良いんでしょうけど、ぼくは1人でテストすることで、自分の中でそのゲームに対しての変な先入観がついちゃうのがイヤなんですよ。自分ひとりでテストして動かす中では、やっぱり他人がやるような極端なプレイの幅を想像できないんです。人間の考えることは本当に幅が広くて、予想もつかないような動きをするものですから。たとえばサイコロだと1から6までしか出ないと決まっていますが、人間の考えることはもっとすごい幅をもってるんですよね。本当に何やり出すかわからないので(笑)

── 林さんのお作りになるテストプレイ用のキットというのは、具体的にはどんなものでしょうか。どの程度まで作り込んでおられますか。

 アイコンなどの情報についてはほぼ固まっているので、配置などは自分でやりますが、イラストはにゃもさんに完全に任せてますから、テストキットには絵はありませんね。これはぼくがパワーポイントで作っていたもので『横濱紳商伝』のプロトタイプです。(プロトタイプを触りながら)ひさしぶりに見るなぁ。初期の立地カード、なつかしい〜。

── このテストキットはすごくしっかりと作り込まれていて、構図までがほぼ完成形に近いものですね。最初のプロトタイプの段階でここまで固まって出てくるのですか。こんな精巧な厚紙製のトークンまでお作りになるんですね。

 これは以前、別のゲームためにドイツのシュピールマテリアルから買ったトークンです。それが余っていたのでテスト用に使っています。お金トークンなどは一部『ミネルウァ』のコンポーネントを使ってるんですよ。長年作っているといろんな予備用のパーツが余ったりするので、家にこういうものがたくさんあるんです。ずっと前に紐が大量に余った時は100円ゲームとして『ひも運輸』というゲームを作ってしまいました。

── (カードを手にとって見ながら)これはコピー紙にプリントアウトした紙をカードスリーブの中に入れて使っているんですね。

 テストを繰り返していく中で、カード情報のバージョンを替える時も、スリーブの中にプリントした紙を新たに重ねて行くんです。そうするとテストキットの更新履歴がわかるんですよ。「これダメだったからカードの効果を少し変えます」となって効果を微調整した後に「やっぱり元のほうが良かったね」ということが時々あるんですよ。そういう場合でも、スリーブの中の紙を1枚めくれば元の効果が出てくるので便利なんです。そのままテストも続行できるし、良いことばかりなんですが、スリーブがどんどん分厚くなってくるという欠点が(笑) あとはフリクションという「消せるペン」で書いて消してというのもやりますね。

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