表紙_後篇_上杉300

『創造的な習慣』上杉真人 後篇

I was game上杉真人(うえすぎ・まさと)さんは、デジタルゲームとアナログゲームに対する豊富な見識を元に、個性的でありつつ創造的な作品を硬軟巧みに作り分ける知性派のアナログゲームデザイナーです。

主な作品リスト
ヴォーパルス』『ダンジョン オブ マンダム』『Welcome to the Dungeon』『メイガスホールデム』 『ドワーフの城塞』『Twelve Heroes(共作)』『Welcome Back to the Dungeon(共作)』『ダンジョン オブ マンダム エイト』他

優れた作品を創作し続けているアナログゲームのデザイナーに対して、Saashi & Saashi が定型的な質問を用意し、それに回答してもらうという、このインタビュー企画『創造的な習慣〜アナログゲームデザイナーはいかにしてクリエイトするのか』。

広い見識からもたらされる上杉さんの自他の作品に対する、また完成への過程にあるゲームアイデアたちに対する精緻な分析の視点は、あらゆるクリエイターにとって刺激になりえるものだと思います。知識を知識だけには終わらせることなく、いかにして自らの創造性に結びつけ、作品として仕上げていくのか。ロングインタビューを敢行してまとめた全記事を三分割し、後篇をここにお届けします。(前篇中篇はこちら)


ディベロップ

── 上杉さんはゲームを作る際、数学的な計算を立てて作っておられますか。

上杉 数字の計算はやることが多いですね。

── テストプレイをした結果、そのプレイ感については計算通りのものになっているのでしょうか。

上杉 いや、想定外は多いです。「おもしろい」「おもしろくない」についての想定外ですね。計算上はこっちのほうがバランス取れているんだけど、本当はそのバランスを崩したほうがおもしろかった、ということはよくありますよね。

── メカニクスを考える、作り出す作業というのは、どのようにして始まるのでしょうか。先ほど、借用みたいなものから始めるというお話もありましたけれど、たとえば「仮のもの」として、一旦既存のメカニクスを借りてきて動かしてみるという感じなのでしょうか。

上杉 いや、借用する場合も、メカニクスをパクることが目的ではないので、さっきの人狼の例え話で言えば、人狼というのは推理のゲームなので、「推理」を成り立たせる別のメカニクスを考えるということです。

── 人狼という「体験」を生み出す、というところを借りるだけで、「推理ゲーム」のメカニクスは新たに考えていくわけですね。

上杉 やはり「体験」の元として、すでにある「なにか」を借りてきているというところです。それの角度を変えてみたり、あるいは自分ならもっとうまくやれるかもしれないという期待があったりも含めて。

── プレイヤーの心理状態をトレースしてみて、考えるということですよね。上杉さんの場合は、「考える」よすがとして、既存の枠組みをふわっと借りて始めるきっかけにしていらっしゃるのですね。実際にメカニクスをそのイメージに紐づける際には、まず何かが浮かんで、一旦はそのプレイ風景に組み合わせてみて「合わなかったな」と思って、また別のメカニクスを紐づけてみるという感じなのですか。

上杉 ひとつ「こういう体験を再現したい」という課題があって、それに合う解答を見つけていきます。

── 答え合わせは常に行なっていて、合致せずに外されていくメカニクスもたくさんある、という感じなのですか。

上杉 そうです。ぼくの場合は、すでにあるメカニクスからの組み合わせで作ることが多いですね。また人狼を例にしますが、あのゲームは特にゲームフロウのない自由なゲームで、会話をいくらでもやって良いんですよね。たとえば、その会話の部分をワーカープレイスメントに変えてみる、といったことですね。

── ごっそり会話部分をなくしてしまうんですね。

上杉 会話という「メカニクス」をワーカープレイスメントに置き換えたら、どうなるかなということを考えたりします。これは「なにやる」を規定するメカニクスと、「どうやる」を規定するメカニクスの話ですね。大雑把に言えば、「なにやる」というのは「推理」です。「どうやる」の部分は会話だったり、ワーカープレイスメントだったりするんですね。そこの組み合わせ次第で、結構いろんなゲームのパターンが生まれてくるんですよね。

── 上杉さんはその「なにやる」の枠組みをトレースしてから、「どうやる」との組み合わせを考えていくわけですね。つまり、「どうやる」を考えるきっかけとしてのトレース。でも、「どうやる」との組み合わせは千差万別ですよね。

上杉 実際は交換可能なものなんですよ。

── 小さなアイデアのイメージだけがあり、それに見合うメカニクスを試してみてフィットしなかった時、合うメカニクスを見つけ出すまで粘りますか。それとも一旦時間を置きますか。

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