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【読書記録】何者/朝井リョウ

『何様』を読んだ流れで、2-3年ぶりに『何者』を読み返した。

演劇サークル出身で他者の観察を趣味とする拓人、拓人の同居人でバンドに青春を費やした光太郎、光太郎の元カノで拓人の片思い相手でもあるまっすぐな性格の瑞月、瑞月の友人でいわゆる"意識高い系"な理香、理香の彼氏で"就活はしない"と言い切る隆良。ひょんなことから知り合った5人は、理香の部屋を就活対策本部として度々集まることになる。自らの本音や自意識を晒したり隠したり、ときにはSNSに吐露したりしながら交錯していく5人だが、あるメンバーが「内定」を得たことでその関係は思わぬ方向へと変化していく。

※ここからネタバレを含みます※

『何者』を読むと、どうしても自分自身の就活を思い返してしまう。わたしの就活は、(就活留年こそしなかったものの)5人の中だとたぶん拓人に近かった。真面目にがんばっているつもりなのに結果が出ず、「周りのやつらと自分は違う」と思うことで自意識を慰めたがる。わたしのように、拓人の姿に自分を重ねてしまう人は決して少なくないと思う。

作中で、出版社から内定をもらったばかりの光太郎が、拓人に「なんで内定が出ないのか本当に分からない」と伝える場面があった。これは、紛れもなく光太郎の本音なのだと思う。拓人と同居し、様々な面を見ているであろう光太郎が抱いている疑問。

けれどそれは、せいぜい30分しか顔を合わせない面接官には伝わらない。この後の場面では、知り合って日が浅い理香の「私、拓人くんにどうして内定が出ないのか分かるよ」という台詞もある。悲しいことに、こちらの方が面接官の印象に近いわけだ。社会人になり、いちおう面接官側も経験した者としては、これは選ぶ側の難しさでもあると思う(だからこそ、『何様』は救いだと感じた)。

裏アカウントに鍵をかけたり、最初からメールアドレスでの検索ができないようにしたりするのは常識だと思っているので、拓人の詰めの甘さに対して同情はできない。一方、理香のように肩書に縋る姿は、『何様』を読んだ後でもやっぱり理解の範疇外だ。天真爛漫な光太郎は友達になったら楽しそうだけれど、たとえばグループ面接で一緒だったら、わたしは「今日はツイてなかった」と思うだろう。瑞月はまっすぐで良い子だけど、ずっと一緒にいたら疲れてしまいそう。隆良はまず、絶対に友達になりたくないタイプ。…そんなふうに俯瞰してしまう自分もまた、何者でもないのだろう。そんなことは、百も承知だ。

それでもわたしはまだ、何者かになりたい。そのことを確かめ、自分がちゃんと足掻けているか思い返す意味でも、何年かに一度は読み返したい小説。いつか、この物語が刺さらなくなる日が来ますように。

※トップ画像は「みんなのフォトギャラリー」からお借りしました。わたしがこういう写真を取ろうとすると全部ぶれます。

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