2023/03/07(火)のゾンビ論文
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件を「zombie -firm -company」として、八件がヒットした。八件中、黒人映画学が二件、倫理学、コミュニケーション学、経済学、音楽学、聖書学、医学が一件ずつだった。
また、差分を見るために「zombie」の条件でもアラートを設定しており、こちらでは三件がヒットした。そのうち三件中、経済学、芸術が一件ずつ、不明が一件だった。
検索キーワード「zombie -firm -company」
THINK AGAIN(あるいはこちらのリンク)
一件目。タイトルは和訳せずにそのまま「もう一度考えよう」。掲載誌はSouthern Journal of Business and Ethicsだが、"Access from your area has been temporarily limited for security reasons."ということで、私はそのHPにアクセスできなかった。日本にあるサーバを伝うとアクセスできないのだろうか。著者はMarty Ludlum。
”THINK AGAIN”は心理学者であるAdam Grantによる書籍。日本語にも翻訳されているようだ。こちらのリンクから論文のタイトルを確認するとBook Reviewと入っていることから、その本のレビューをした論文なのだろう。
zombieの単語が現れるのは次の一文。
インターネットの情報を信じる前に”もう一度考えよう”ということだろうか。日本ではワクチン接種で5Gに繋がると聞くが、アメリカではゾンビになってしまうらしい。「5Gに繋がる」はそもそも意味がわからないが、高々一介のワクチンでゾンビになるのも意味が分からない。陰謀論としては中々いい勝負か。いや、ゾンビの定義はいくらでも拡張できるから陰謀論としてはアメリカの方が確度が高いとも言える。
本のレビューであるから人文系でジャンルを探したくなるが、掲載誌が"Business and Ethics"(ビジネスと倫理)であるから、倫理学としておく。
A CRITICAL METHOD FOR PERFORMING POPULAR TEXTS
二件目。タイトルの直訳は「一般的なテキストを実行するための重要な方法」。Research Methods in Performance Studiesという雑誌の第三章。執筆者はTracy Stephenson Shaffer。
zombieの単語はなんと"Nonfiction Zombie"という文字列で出てくる!はじめにこの文字列が出てくる一文を以下に抜粋する。
ノンフィクションゾンビというからには本物のゾンビを扱う話かと期待したが、どうやら比喩表現らしい。”ゾンビの人気が高まったのは、ゾンビが現代の存在の適切なメタファーだったから”というのは、何かしら社会問題をゾンビに例えることがしっくりくるからゾンビの人気が高まったと言いたいのだろう。そんなもの語り手の匙加減一つだと思うのは私だけだろうか。ただ、2009年の原論に当たればその考察が書いてあるに違いない。私はそこまで追いかけるつもりはないが。
ジャンルは何だろうか。著者の肩書を見ると、"Performance Studies"とある。さらにCURRICULUM VITAを見ると、"Speech Communication"とある。でパフォーマンス学とコミュニケーション学であれば、コミュニケーション学の方がまだなじみがある。ということで、ジャンルはコミュニケーション学とする。
Inflation: The Good News, the Not‐ So‐ Good News, and the Bad News
三件目。タイトルの直訳は「インフレ: 良いニュース、そうではない良いニュース、悪いニュース」。Policy Commonsに掲載された。著者はNorbert Michel。
「インフレ」とあるからにはジャンルは経済学だろう。economyで単語検索するといくらかのヒットがあったので、間違いない。
zombieの単語は次の一文で出てくる。
フィリップス曲線は経済学において物価と失業の関係を示したものである。それが死んでいるということは、時代を経て理論の間違いが明らかになったか時代の変化についていけなくなったかのどちらかだろう。
せっかくアラートのキーワードからfirmとcompanyを削ったところに、単なる比喩として現れるzombieの一語。何かあったらゾンビでたとえたくなる彼らの性根に我慢しながら、私は今日もゾンビ論文を探す。
From Civil Rights to the Post-racial Lie: The Representation of Racial Politics in the American Horror Film Score
四件目。タイトルの直訳は「公民権からポストレイシャルの嘘へ: アメリカのホラー映画音楽における人種政治の表象」。掲載誌はContext。著者はCalum White。
ホラー映画ではなく、ホラー映画音楽。そして掲載誌のContextは音楽系の研究雑誌を謳っている。であれば、ジャンルは音楽学。(語呂悪くない?)
zombieのキーワードに引っかかったのはもちろんホラー映画としてゾンビ映画を引き合いに出しているから。ロメロのゾンビ3部作や恐怖城、私はゾンビと歩いた!などが紹介されている。
Close-Up: Contemporary Black Horror Introduction
五件目。タイトルの直訳は「クローズアップ:現代のブラックホラー紹介」。掲載誌はBlack Camera。著者はKartherine Tartaglia。
Black Cameraという雑誌のポリシーを以下に引用する。
黒人映画体験の研究。これが生み出した、あるいはこれを生み出した精神のおかげで黒人差別をしなかった我々日本人もアメリカローカルのポリティカルコレクトネスである人種の多様性の恩恵を受けられるというわけだ。
とはいえ、昔の欧米人が作った映画を観ていると、本当に黒人が出てこない。白黒映画で黒人が出てきた覚えがあるのは『私はゾンビと歩いた!』くらいだ(それはそれで嗜好が偏りすぎている)。そこでは未開の土人くらいに扱われていたので、黒人映画体験という精神が現れるのもわかる。
と、考えていたらやはり『私はゾンビと歩いた!』が引き合いに出されている。ほかには『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に『Ganja & Hess』、『クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア』。後者の2つは観たことがないが、前者の2つは確かに黒人の扱いについて言及する価値がある。そして、この論文でもそういったことが扱われている。
この研究誌に敬意を示し、ジャンルを黒人映画学とする。
Dossier: Spectacles of Anti-Black Violence and Contemporary Black Horror
六件目。タイトルの直訳は「ドシエ: 反黒人暴力と現代のブラック ホラーの光景」。掲載誌はBlack Camera。著者はLauren McLeod CramerとCatherine Zimmer。
Catherine Zimmerは過去の記事でも出てきた名前だ。やはりその時もホラー映画について取り扱っていた。2023/02/23の六件目の論文がそうだ。
おおまかにいえば五件目の論文と内容が同じであると考えられる。もちろん中身が異なるため異なる論文として掲載されているのだが…。目を通していない映画について「これが黒人差別だ!」と指摘されてもそれを理解するだけのバックボーンが私にない。内容については踏み入らない。
ジャンルは黒人映画学。
Teaching the Bible with undergraduates
七件目。タイトルの直訳は「学部生と聖書を教える」。このタイトルで本が出版されている。著者はJocelyn McWhirterとSylvie T.Raquel。
聖書になぜゾンビが出てくるのか。ゾンビの単語が出てくるのは次のフレーズ。
Quick Tipというのはおそらく、大学一年生向けの教科書でよく見る一ページ程度のコラムだろう。そこで、聖書の授業でゾンビがなぜか出てくるという話をすると想像している。
ジャンルは聖書学。聖書は解釈の仕方が様々に分かれており、研究の対象になっているため、そういう学問分野が存在する。
The Effects of Tert-Butylhydroquinone on the Murine Natural Killer Cell Activation, Effector Function, and Primary Response to Influenza
八件目。タイトルの直訳は「マウス ナチュラル キラー細胞の活性化、エフェクター機能、およびインフルエンザに対する一次応答に対する tert-ブチルヒドロキノンの効果」。Michigan State Unicersityに提出された博士論文。著者はAllison Paige Boss。
ジャンルは医学で、zombieの単語は死んだ細胞を光らせる試薬であるZombie Aqua Fixable Viabilityの文字列で出てくる。
検索キーワード「zombie」(差分のみ紹介)
3月からはアラートのキーワードをzombieだけではなく、-firmと-companyも追加した。各単語の前のハイフンは”含まない”を意味するため、『zombieという単語を含み、かつfirmとcompanyという単語は含まない』という検索条件になっている。この節では差分を見ることを目的とするため、各論文の内容には立ち入らない。
Assessing the impact of COVID-19 on economic recovery: role of potential regulatory responses and corporate liquidity
一件目。タイトルの直訳は「COVID-19 が景気回復に与える影響の評価: 潜在的な規制対応と企業の流動性の役割」。掲載誌はEnvironmental Science and Pollution Research。著者はRenzao LinとXianchang Liu、Ying Liangの3名。
景気回復というからにはジャンルは経済学だろう。その証拠に、アブストラクトに"zombie firm"の文字列があった。"zombie enterprise"という文字列もあった。firmとcompanyとenterpriseはどう違うのか。
Morning Regional Country Geographical Rematory Sheratondallas Licensing Calinia Augustine Events Congolese Russian Directive Marriages Zurcher
二件目。タイトルの直訳は「朝 地域 国 地理的 Rematory シェラトンダラス ライセンシング カリニア オーガスティン イベント コンゴ ロシア語 指令 結婚 チュールチャー」。掲載誌はFrontiers in Machine Learning。著者はTegan Jeswin。
…らしいのだが、Frontiers in Machine LearningもTegan Jeswinもグーグル検索で出てこない。本当に存在するのか…?
思うに、タイトルのでたらめっぷりから言っても、機械学習で作った論文もどきではないだろうか。アブストラクトものっけからめちゃくちゃであり、アブストラクト下のキーワードもとてもではないが論文の傾向を示すような単語が並んでいるとは思えない。
“I've Been Working My Ass Off For You To Make That Profit”: Fundamental Information for The Self-Advocation of Emerging Artists
三件目。タイトルの直訳は「「私はあなたがその利益を得るためにがむしゃらにはたらいてきました」:新進アーティストの自己擁護のための基本情報」。Sotheby’s Institute of Artに提出された修士論文。著者はLayne Hubble。
zombieの単語は"zombie-art-formalism"か"zombie formalists"の文字列で現れる。また、companyにひっかかって検索の差分に落ち込んだらしい。
zombie formalistsは直訳するとゾンビ形式主義。日本語検索では出てこない。しかしきちんと"zombie formalist"で検索すると、次のサイトがヒットした。
抽象画の新しい形らしい。気が向いたときに調べるとする。ジャンルは芸術。
まとめ
「zombie -firm -company」では、八件中、黒人映画学が二件、倫理学、コミュニケーション学、経済学、音楽学、聖書学、医学が一件ずつだった。
差分として、「zombie」では、三件中、経済学、芸術が一件ずつ、不明が一件だった。
目論み通り、firmとcompanyを含まないようにしたら経済学がアラートから落ちている。しかし芸術が落ちたのは予想外だった。この検索キーワードで本物のゾンビの論文に効率よく出会うことができるか、もう少し調べることとする。
今日はヒットなし。
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