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副業・兼業の労働時間通算規定は不要か-厚生労働省の研究会で議論

厚生労働省労働基準局は労働基準法等の見直しについて具体的な検討を行うことを目的とした「労働基準関係法制研究会」を新設し、第2回研究会は(2024年)2月21日に開催され、労働時間制度について議論された。


副業・兼業の労働時間通算規定の見直し

第2回「労働基準関係法制研究会」のために厚生労働省が準備した資料の中に(労働基準法に規定された)労働時間制度見直しの論点として「割増賃金(時間外労働、休日労働、深夜業)について、副業・兼業での取り扱い含め、意義は何か」と書かれている。

労働基準関係法制研究会 第2回資料(厚生労働省サイト)

官僚の文章は何が言いたいのか理解しがたいところがあるが、結局は兼業・副業の労働時間通算規定を撤廃して長時間労働になっても残業代は払いたくないという経営者の要望に応えたいということでしょう。

つまり労働者が企業に雇用される形での副業・兼業を行った場合は労働時間を通算することになっている労働基準法の規定を見直したいということ(詳しくは『労基旬報』の記事を)

経団連 割増賃金規制へ要望 副業時間「通算」見直しを(労基旬報)

なお、第2回「労働基準関係法制研究会」での議論についてはアドバンスニュースが報じているけど、有料記事のため記事の一部しか読めない。

副業・兼業の「割増賃金」などで活発議論、厚労省の有識者研究会 「労働時間制度」のあり方検討(アドバンスニュース)

労働基準関係法制研究会とは

労働基準関係法制研究会の開催要綱には「今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を行うとともに、働き方改革関連法附則第12条に基づく労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うことを目的として、『労働基準関係法制研究会』を開催する」と記載されている。

また、労働基準関係法制研究会の開催要綱によると労働基準関係法制研究会の検討事項は「『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を踏まえた、今後の労働基準関係法制の法的論点の整理」と「働き方改革関連法の施行状況を踏まえた、労働基準法等の検討」とされている。

労働基準関係法制研究会のメンバー

労働基準関係法制研究会のメンバー(構成員)は次のとおり。

荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
安藤至大 日本大学経済学部教授
石﨑由希子 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授
神吉知郁子 東京大学大学院法学政治学研究科教授
黒田玲子 東京大学環境安全本部准教授
島田裕子 京都大学大学院法学研究科教授
首藤若菜 立教大学経済学部教授
水島郁子 大阪大学理事・副学長
水町勇一郎 東京大学社会科学研究所比較現代法部門教授
山川隆一 明治大学法学部教授
                        (敬称略・五十音順)

労働基準関係法制研究会開催要綱別紙より

資料「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」

厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の第6回研究会の資料は「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」と題されています。

この資料は今までの研究会で「労働時間法制」「労働基準法の事業」「労働基準法の労働者」「労使コミュニケーション 」といった各論点について各メンバー(構成員)の意見を整理し、リストアップしたものとされていますが、ここでは「労働時間法制」の中の副業・兼業の場合の割増賃金にかかわる箇所のみ抜粋して掲載します。

副業・兼業の場合の割増賃金
【働き方改革関連法の施行後の評価に関する意見】
・働き方改革の結果、副業・兼業を認める企業は増加しているが、労働時間通算の煩雑さ等から、雇用でなく請負で副業・兼業を受け入れているケースが多くなっているという意見があった。
・労働者の保護の観点からも、請負ではなく、雇用での副業・兼業をやりやすくする検討をすべきという意見があった。

【今後の議論の方向性に関する意見】
・副業・兼業を行う労働者の健康確保のための労働時間通算は必要であるという意見があった。健康確保のための労働時間の把握・管理手法については、企業ごとに把握するか、労働者に申告義務を課すか、何らかのシステムを構築するか、雇用に限らず健康確保が必要 であるという観点から、就業者全体の問題として検討すべきという意見があった。
・割増賃金にかかる労働時間の通算を義務とすると、
① 企業が副業・兼業を受け入れづらくなる
② 雇用ではなく業務請負での受け入れが増え、実態との乖離や健康確保の欠如の恐れがある
③ 特に交渉力の低い労働者において、雇用機会を失う恐れがある
④ ③を回避するため、労働者が副業・兼業であることを隠し、結果として健康確保と割増賃金の双方が損なわれる事態になり得るといった弊害が生じることから、各社それぞれの労働時間で割増賃金を計算する方向で検討すべきという意見があった。
・ヨーロッパの主要国でも、割増賃金について労働時間通算を行う例はないことからも、見直しが必要という意見があった。
・なお、グループ企業や取引関係のある企業などとの間で名目上副業・兼業させ、割増賃金を逃れるようなケースを生じないようにする必要があるという意見があった。

資料「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」

資料「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」(PDF)

参考:経団連の規制改革要望

経団連(日本経済団体連合会)が2023年9月12日に公表した2023年度規制改革要望に「副業・兼業の推進に向けた割増賃金規制の見直し」といた要望項目があります。

そこには「真に自発的な本人同意があり、かつ管理モデル等を用いた時間外労働の上限規制内の労働時間の設定や一定の労働時間を超えた場合の面接指導、その他健康確保措置等を適切に行っている場合においては、副業・兼業を行う労働者の割増賃金を計算するにあたって、本業と副業・兼業それぞれの事業場での労働時間を通算しないこととすべきである」と記載されています。

No. 37. 副業・兼業の推進に向けた割増賃金規制の見直し
<要望内容・要望理由>
現行法では、本業と副業・兼業の労働時間が通算される。そのため、例えば本業の所定労働時間が1日8時間、週40時間の場合、副業先における就労のすべての時間に割増賃金が発生する等の事象が多く発生する。これは、副業・兼業先にとって重い負担となり、国全体として副業・兼業を推進するうえでの大きなハードルとなっている。また、副業に従事している社員からも、割増賃金が適用されることで副業先の他の社員に気を遣ってしまうなどの声がある。
割増賃金規制は、法定労働時間制または週休制の原則を確保するとともに、長時間労働に対して労働者に補償する趣旨であるが、本人が自発的に行う副業・兼業について適用することはそもそもなじまない。
そこで、真に自発的な本人同意があり、かつ管理モデル等を用いた時間外労働の上限規制内の労働時間の設定や一定の労働時間を超えた場合の面接指導、その他健康確保措置等を適切に行っている場合においては、副業・兼業を行う労働者の割増賃金を計算するにあたって、本業と副業・兼業それぞれの事業場での労働時間を通算しないこととすべきである。
これにより、副業・兼業が促進され、働き手の主体的なキャリア形成や企業の多様な人材の確保などにつながることが期待される。

<根拠法令等>
労働基準法第37条第1項、第38条第1項
副業・兼業の促進に関するガイドライン

経団連「2023年度規制改革要望」

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*ここまで読んでいただき感謝!