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裁量労働制に関する厚生労働省検討会-第1回検討会における問題提起

これからの労働時間制度に関する検討会・開催要領

厚生労働省は裁量労働制など労働時間制度に関する検討会(正式名称:これからの労働時間制度に関する検討会)を新たに設置し、今年(2021年)7月26日に第1回検討会が開催された。

その第1回検討会の資料1は「これからの労働時間制度に関する検討会開催要綱」になり、開催要綱によると「これからの労働時間制度に関する検討会」の目的は「裁量労働制その他の労働時間制度について検討を行うこと」とされている。

資料1 これからの労働時間制度に関する検討会開催要綱
1.趣旨・目的
労働時間制度については、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)により、罰則付きの時間外労働の上限規制や高度プロフェッショナル制度が設けられ、働く方がその健康を確保しつつ、ワークライフバランスを図り、能力を有効に発揮することができる労働環境整備を進めているところである。
こうした状況の中で、裁量労働制については、時間配分や仕事の進め方を労働者の裁量に委ね、自律的で創造的に働くことを可能とする制度であるが、制度の趣旨に適った対象業務の範囲や、労働者の裁量と健康を確保する方策等について課題があるところ、平成25年度労働時間等総合実態調査の公的統計としての有意性・信頼性に関わる問題を真摯に反省し、統計学、経済学の学識者や労使関係者からなる検討会における検討を経て、総務大臣承認の下、現行の専門業務型及び企画業務型それぞれの裁量労働制の適用・運用実態を正確に把握するための統計調査を実施したところである。当該統計調査で把握した実態を踏まえ、裁量労働制の制度改革案について検討する必要がある。
また、裁量労働制以外の労働時間制度についても、こうした状況を踏まえた在り方について検討することが求められている。
このため、裁量労働制その他の労働時間制度について検討を行うことを目的として、「これからの労働時間制度に関する検討会」(以下「本検討会」という。)を開催する。

2.検討事項
本検討会においては、次に掲げる事項について検討を行う。
・ 裁量労働制の在り方
・ その他の労働時間制度の在り方

これからの労働時間制度に関する検討会・開催経過

「これからの労働時間制度に関する検討会」は本日(2021年9月27日)までに計3回開催されている。

第1回検討会は2021年7月26日に開催され、議題は (1) 裁量労働制に関する現状等について、(2) その他。

第2回検討会は2021年8月31日に開催され、議題は (1) 裁量労働制に関する現状について、(2) その他。

第3回検討会は2021年9月7日に非公開で開催され、 企業からのヒアリングが行われた。なお、議事録は現時点(2021年9月27日)では第1回検討会の議事録のみ公開されている。

これからの労働時間制度に関する検討会・議事録

第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録によると、第1回検討会に出席した委員は次の6委員(一橋大学大学院経営管理研究科教授の島貫智行委員は欠席)。

・東京大学大学院法学政治学研究科教授の荒木尚志委員(座長)
・京都大学大学院人間・環境学研究科教授の小畑史子委員
・筑波大学ビジネスサイエンス系教授の川田琢之委員
・早稲田大学教育・総合科学学術院教授の黒田祥子委員
・北里大学医学部教授の堤明純委員
・法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授の藤村博之委員

議事録によると藤村博之委員は「本来支払うべき労働時間を経営側が減らしたいというときにこの裁量労働が使われているという実態がどうもあるようで、その辺をどういうふうに私たちはこの場で考えるかということが課題」と発言している。

また、荒木尚志委員(座長)は議事の最後に「藤村委員からは、裁量労働制がいわば割増賃金を支払いたくないがために濫用的に使われているのではないかという御指摘がございました。以前のJILPT(労働政策研究・研修機構)の調査では、裁量労働制に満足している人と不満がある人に分かれていて、不満があるという回答の多くは年収が非常に低い。まさに割増賃金を抑えるために濫用的に用いられているのではないかと伺えるようなものがあったように思います。今回は満足度が高いという回答も多いわけですけれども、そうではないところではどこに原因があるのかということについても検討していければと考えております」とも発言し、藤村委員発言を支持。

○藤村構成員
藤村でございます。私は、人事労務を専門にしておりまして、企業の労働実態を研究対象としております。労働組合へのインタビューとか、実際に裁量労働制で働いている人たちの状況とか、その辺りから発言をしたいと思います。主に3つの点です。

まず、第1点目ですが、今回の調査から、労使ともに裁量労働制の本来の趣旨をちゃんと理解しうまく使っているところと、ちょっと逸脱してしまっているのではないかというところがあると思います。

いわゆる問題が発生している、例えば、長時間労働になっているとか、あるいは、健康状態の問題とか、明確には分かりませんが、ざっと1割ぐらいの回答者が、どうも本来の裁量労働の働き方とは違う働き方を強いられているのではないかと考えられます。

ここでどういう人たちを対象にして議論するのか、もちろん、制度の趣旨が生かされて生き生きと働いている人たちは放っておいてもいいわけで、そうではない人たちに対して、何らかの支援といいますか、ある種の歯止めをかけていく必要があるのではないかと思います。ただ、それをやり過ぎますと、制度自体が非常に使いにくいものになっていきます。どの辺りでバランスを取るかというのが問題になるかと思います。

2点目は、本人の同意を必要とすることの実態はどうかという点です。どの調査にも、本人の同意が必要だと出てまいります。あるいは、制度自体が、労働者代表との間で合意をすること、具体的には、過半数を代表している組合があれば、その労働組合との合意になるのですが、この合意も現実には難しいところがあるように思います。

私が相談を受けました案件を申し上げますと、大手の損害保険会社の情報部門の会社があります。損害保険会社は、子会社として、損害を調査する会社と情報部門を統括する会社を持っていまして、その情報部門の会社の労働組合から、現在の実態としてこういう働き方になっている、裁量労働をやっている、この裁量労働制に合意していいものかどうか悩んでいるという相談を受けました。

実際に働き方を聞いてみますと、裁量労働制にするとまずいのではないかという状態でした。私からアドバイスを得たいということでしたので、今回は合意しないほうがいいのではないですかと申し上げたのですが、最終的に合意をされました。なぜかというと、合意しないという意思決定を労働組合がすることは、労使関係をとても悪くする、そこは難しいのだということがあったのですね。

本人の同意というところも難しさがあります。同意しないということになると、「君は能力が低いんだね」と思われて、評価を下げられ、自分自身の将来の昇進とかに関わる。そうすると、同意しないという意思決定はしにくくなります。ですから、合意をしているけれども、心から合意しているわけではないということがある。これを私たちはどういうふうに考えるかという課題があるかと思います。

3点目として、働く側の交渉力の問題です。どれくらい会社と交渉力を持っているかという点がこの制度の成否を決める分かれ目になっているのではないかと思います。

例えば、ある業務について「これを君にやってほしい。裁量労働という枠組みの中でお願いしたい」と言われたときに、明らかにこれは長時間労働になることが分かる場合、交渉力が弱ければ、合意するしかありません。でも、交渉力があれば、「これだけの時間でこれだけのことをやれというのは無理だから、合意できません」と言えます。交渉力がある人は、もしその会社にいづらくなったとしても別の会社に移って働き続けることができますから、自分の意見をはっきり言えるわけです。

他方、弱い立場の人がそういう提示をされたときに、受けざるを得ないことになります。先ほどお話しした2点目との関連があります。実際に裁量労働で働いていらっしゃる方のお話を伺うと、本来は「こういう業務を何日までに」ということで始まるのだけれども、毎日会社に行っていると、上司から「ごめん、ちょっとこれをやってほしいんだけれども」と依頼されます。これは断りにくいですね。「私は裁量労働で働いているのですから、別の業務は受けられません」と言ってもいいはずなのですが、そういうことは言いにくい。そうすると「はい、分かりました」となって、業務が増えていくのですね。

上司は能力のある人に仕事を任せたいから、どんどん仕事が増えていって、結果として、本来の裁量労働制で課されている課題以外のことに対応する量が増えて長時間労働になってしまいます。

最近は在宅勤務が増えましたので、追加の業務が降ってきにくい状況です。これはいい傾向かなと思います。顔を合わせていないですから、上司も頼みにくいというのがありますよね。以上のように労働実態を見ていったときに、この制度がうまく使われていない企業をどう指導していくのかという議論が必要ではないかと思います。
以上です。

○荒木座長
(略)藤村委員からは、人事管理の実態も踏まえた同意の在り方も考えなければいけないという指摘がありました。

裁量労働というのは本来は、専門業務型等、対象業務が限定されているのですが、それと異なる依頼があったときにどう対応するか。メンバーシップ型に浸っている労働者からすると、これは断りづらいということかもしれません。メンバーシップ型からジョブ型へという大きな議論もありますけれども、人事管理の中でどう制度を考えていくかという課題の御指摘もあったように思います。(略)

○藤村構成員
先ほど私が申し上げた損害保険会社の情報会社で、経営側の意図は明らかに残業時間に対する支払いを減らしたいというところが見えていたのですね。だから、同意すべきではないのではないですかと申し上げました。本来支払うべき労働時間を経営側が減らしたいというときにこの裁量労働が使われているという実態がどうもあるようで、その辺をどういうふうに私たちはこの場で考えるかということが課題かと思っております。以上です。

○荒木座長
(略)先ほど、藤村委員からは、裁量労働制がいわば割増賃金を支払いたくないがために濫用的に使われているのではないかという御指摘がございました。以前のJILPTの調査では、裁量労働制に満足している人と不満がある人に分かれていて、不満があるという回答の多くは年収が非常に低い。まさに割増賃金を抑えるために濫用的に用いられているのではないかと伺えるようなものがあったように思います。今回は満足度が高いという回答も多いわけですけれども、そうではないところではどこに原因があるのかということについても検討していければと考えております。(略)(第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録より)

第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録(厚労省サイト)

追記:上西充子法政大学教授ツイート

私が「荒木尚志検討会座長は『以前のJILPTの調査では、裁量労働制に満足している人と不満がある人に分かれていて、不満があるという回答の多くは年収が非常に低い。まさに割増賃金を抑えるために濫用的に用いられているのではないかと伺えるようなものがあったように思います』と」(2021年9月28日)とツイートしたところ、裁量労働制問題に詳しい上西充子法政大学教授(元JILPT研究員)が「今回の調査でもデータはあるので、満足度別の年収分布は出せるはずです」とコメントつきでリツイート。また、リツイートにつづけて次のようにツイート。

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*ここまで読んでいただき感謝(佐伯博正)