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仮説を実証する方法 ~実験デザインのノウハウ~

 心理学の研究をしているというと人の心が読めるの?と言われることがある。私に関して言えば、人の心など読めない。たいていの心理学者は人の顔色で心を読み解くような勉強や訓練をしていない(と思う)。では、心理学の研究を行っている人が何をやっているかというと、先行研究の論文を読んで、仮説をたて、それを実証する方法をデザインし、データを集めて、集めたデータを統計解析し、既存の理論を更新する論文を書く、または、学会でプレゼンして意見交換をするということをしている。

 この記事では、心理学を研究している人が行っている実証する方法をデザインするという点にフォーカスして、デザインする上での注意点をいくつか紹介する。これから研究する人や心理学をやっていなくても何かをデータを使って実証しようとする人にとってヒントになると思う。

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仮説を実証する方法

 ある仮説があったとする。それをどのように実証するか?このシリーズでは、実験による実証パネルデータによる実証社会にすでにあるデータで実証をとりあげる予定であるが、今日はそのなかでも実験による実証のノウハウをとりあげる。

実験による実証

 さて、あなたはまず仮説を実験で実証しようと思い立った。実験は原因と結果の関係を実証するオーソドックスで強力な方法だ。逆にいえば、原因と結果の関係を実証しようとしたら、ほかの方法では無理だ。実験をするしかない。工程はこうだ。実験をデザインする。被験者を集める。実験する。データ分析する。これで結果がわかる。今回はこの実験をデザインするを掘り下げる。

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 毎日チョコを食べると幸福度が高まるという仮説を思いついたとする。既存の理論から導かれていることが前提だが。。これを実験で実証しようとした場合、どうデザインすればよいだろうか

 幸福度が高まるという仮説なので、チョコを十分な期間毎日食べた後の幸福度がチョコを食べ始める前の幸福度より高くなることが必要だ。そのため、まず、どうやら2回幸福度を測定する必要がありそうだ。では、被験者を集めてきて、幸福度を測定して、チョコを食べて続けてもらって、何週間後かに、また、幸福度を測定する。これでよいのか?答えはNoだ。

注意点① 適切な対照群を設定しろ

 何かの処置の効果を実証するには、対照群が必要なのだ。自分が効果があると考える処理、この場合、チョコを毎日食べるというのに似ているが効果がないと考える処置を対照群に対しても行ってもらって、処理群と対照群の比較をする必要がある。前後の比較だけでは不十分なのだ。なぜなら、たとえば、4月に幸福度を測定し、チョコを毎日食べてもらう。そして、7月にもう一度幸福度を測定したとした場合、7月の方が幸福度が高かったとしても、もしかしたら、4月は新学期のドタバタで忙しくて幸福度をさげていて、7月は正常なレベルに戻っただけかもしれないといった指摘を回避できない。外的要因はコントロールできないので、処理群以外にも、もうひとつ群(対照群)を設けて、それら2つの群は等しく外的要因をうけているという仮定のもと実験を行うようにしなくてはならないのだ

 では、対照群にはどういったことをしてもらえばよいか?何もしない無処理群という手もあるが、何かチョコ以外の飴玉なんかがよさそうだ。何かおやつを食べることが効果があってチョコ以外でもいいのでは?という指摘を回避できるものがよい。

 また、被験者を処理群、対照群にランダムアサインすることは基本だ。つまり、被験者を処理群、対照群どちらにするかは無作為に決められなくてはならない。エクセルで乱数を生成するなどしてグループわけするのがよい。

注意点② 被験者に悟られるな

 実験デザインにおいて大事なことはいくつかあるが、一番大事なのは被験者に悟られてはいけない点だ。この「被験者に悟られるな!」のルールが守れていないケースは多い。仮説や実験の目的を悟られては目も当てられない。なぜなら求められている回答がわかってしまえば、その回答に誘導されたり、反発されたりしてしまうからだ。

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  「このワークショップは仕事でも活かせると思いますか?」

 このような意図がみえみえな質問はアウトだ。みんな素直ならいい。ニュートラルならいい。アンケート取り仕切っている人イケメンだったな、この先輩の研究成功するといいなぁ、そんな風に好意を思っていたらアウトだ。その逆も同じ。考えすぎだと思われるかもしれないが、これは査読者、つまり論文を審査する人はそう思わないし、その実例も過去に山ほどある。創意工夫が必要なのだ。

 昔、創造性の能力をはかるため被験者にブレインストーミングしてもらったことがある。ある処置を行ったグループと行っていないグループで創造性に差ができると仮説した。ブレインストーミングの結果から創造性を測定する方法は先行研究で確立されていた。被験者の出したアイデアを実験協力者にデータ分析前に点数化してもらうのだ。点数化はたしかアイデアの多様性と数だったと思うが、ここでの注意点は実験協力者にも仮説を教えてはならないだった。もちろん今点数化している被験者はどちらのグループに属していたかも実験協力者に悟られてはならない。これは前述の注意点と同じ理由だ。人は無意識に忖度する

注意点③ 場合によっては練習させろ

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 ほかにも注意することはある。たとえばあなたはチョコを食べると記憶力が高まるという仮説を思いついたとする。それを示唆する理論があったとして。とりあえず一人被験者を連れてきてあなたはチョコを用意した。まず、記憶力をはかるテストをやってもらう。先行研究から探せばいい。そして、被験者にチョコを食べてもらう。そして、ちょうどいい頃、ここでは1時間後とする。もう一度記憶力をはかるテストをやってもらう。チョコ食べる前より後の方が得点が上がったらこれはチョコが記憶力向上に寄与すると言えるのだろうか?

 卒業論文や実証系でない修士課程ならこれでも許してくれるかもしれない。投稿論文はむりである。被験者が多かったとしてもダメ。なぜか?それは練習効果が働くから。人は学ぶ生き物である。何度も練習してうまくなる。1回目より2回目の方がよい傾向にあるのは当然と思われて終わり。では、どうすればよいか。めいいっぱい練習させるのだ。あらかじめ練習してもらえばいい。疲れない程度に。回数をきめて。

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