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説得力のあるコラムを書けるようになる

〈はじめに〉
※これから語られる言葉は少し長いかもしれませんが、なんども読み返してください。
※できれば声に出して読んでください。文章のリズム、語感がしぜんと身につきます。

 前回は課題の添削を中心に、エッセイのリズムについて話を進めていきました。今回はコラムについて、もう一歩踏み込んで考えてみることにしましょう。コラムのベースは、視点の提示でしたね。同じできごとを見たり、聞いたりしたはずなのに、受け取る側のセンサーがどれだけ働いているか、どういうふうに働いているかによって、受け取り方は大きく異なります。もっとも、日ごろからなにかにつけて、自分のセンサーを働かせよう、と意識している人は多くありませんから、たいていの人は、まわりの人の反応に合わせた反応をするようになってしまっています。

 みんながだいたい同じような反応をする、あるいは、声の大きい人や目立つ人、人気のある人、えらい人の視点を、あたかも自分の視点であるかのように思い込んで、わかったような顔つきの反応をしてしまうのです。これはもう、クセ、みたいなもので、週刊付けられた反応の仕方ですから、よほど自分自身で、自分のセンサーを意識しなければ、そのクセから脱却することはできません。

 ということは、反対に考えれば、コラムに求められているような「新たな視点の提示」ができるようになるということは、おおくの人とは違う反応をするようになるということです。同じものを見ていても、ほかの人とは見ている景色が違う。ちょっとちがう視点でものごとを観察している。コラムを書くということは、つまりは、そういう、「ほかの人とはちょっと違う反応」をしてみせることです。

 コラムニストにはユニークな人が多いのは、きっと、コラム自身のもっている効果なのでしょう。文は人なり、といってきましたが、文が人をつくることもあるのです。

 それでは今回は佐藤さんの小課題を添削していきます。お題は「旅」でした。

〈〇〇さんの例文〉
 まずは文章を読んでみましょう。

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1年前、私は土日を使って、月一、沖縄に行っていた。
LCCで沖縄まで往復1万円くらいで行けるようになったことと、友達が移住して、宿泊費がゼロ円になったからだ。

それまで私は、沖縄には一度も行ったことがなかった。
沖縄なんて遠いところは、1週間くらいの休みが無いと行けないところで、新婚旅行とか、特別な時に行くところだと思っていたからだ。
その証拠に、移住した友達が「いつでも遊びに来ていいよ」と言ってくれていても、最初のうちは「そのうち休みがとれたらね」と言って、自分には縁がないと全く行くつもりはなかった。

それが、月一で沖縄に行くようになったのは、LCC会社のキャンペーンがきっかけだった。

沖縄に移住した友達が大阪に帰ってきて、一緒にご飯を食べていた時、私の眼の前でスマホで沖縄へのチケットを取っていた。その日は、LCC会社のキャンペーンの日だったらしく、沖縄行きのチケットが500円で2枚取れたのだ。

500円だったら、土日で行ってもいいかーと、軽い気持ちで飛行機に乗った。思っていた以上に搭乗が簡単で、しかも、とても遠いと思っていた沖縄が、数時間で行ける距離だと分かった。さらに、土日と2日間だけでも、十分に満足できることを知ってしまった。

それからというもの、LCCの格安チケットを自分で手に入れて、月一で沖縄に行くようになった。沖縄に行くのに慣れると、石垣島や西表島、与那国島まで足を延ばすのも、なんとも思わなくなった。

とっても遠いと思っていたところは、行ってみたらとても近い場所だった。
今思うと、なんて大げさに考えていたんだろうと、自分のびびり具合にちょっと嫌気がさしてしまうほどだ。

現在は、きっかけを作ってくれた友達が大阪に帰ってきてしまったため、沖縄での宿がなくなってしまい、足が遠のいた。それでも、沖縄へ行くことは、近所に出かけることのように、簡単に考えられる。

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 内容に入る前に、「旅」はテーマです。「タイトルをつけてください」、は必須条件として課されていますから、かならず、タイトルを別につけてください。のちのちに話すことになると思いますが、文章の最終的な仕上げのために、タイトルはとても重要なポジションを占めています。これからは、自分の文章にタイトルをつけること。お忘れなく。

 確認のために、繰り返して言います。できるだけ普遍的なルールを取り上げますが、いっぺんにすべてのことを指摘するわけでも、指摘できるわけでもありませんし、細かい部分の積み重ねも大事ですから、誤字脱字や日本語の表現についても触れていきます。大きな視点と小さな視点のバランスをとりながら進めていきますので、そのつもりでいてください。文章は書き手の総合力が求められる、けっこう高度な作業なのです。

 では添削例を見てみましょう。

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『ちょっとそこまで、沖縄まで』

 月に一度の頻度で沖縄を訪れるようになったのは、格安航空会社(LCC)のキャンペーンがきっかけだった。
 沖縄に移住した友だちが大阪に帰ってきて、一緒にご飯を食べているときに、スマホで沖縄へのチケットを取ってくれた。その日はLCCのキャンペーンだったらしく、沖縄行きのチケットが五〇〇円で二枚取れた。
 五〇〇円で行けるなら土日で沖縄に行くのもいいなあと、軽い気持ちで飛行機に乗った。思っていた以上に簡単に搭乗できた。とても遠いところにあると思っていた沖縄まで、一時間あまりの距離だとわかった。土日の二日間だけでも十分に満足できた。
 それからというもの、LCCの格安チケットを自分で手に入れては、月に一度は沖縄を訪れるようになった。沖縄本島に慣れると、石垣島や西表島、与那国島まで足を延ばした。

※ここに旅先でのエピソードや、LCCの機内の様子や魅力を入れる。

 とっても遠いと思っていた沖縄は、案外近い場所にあった。いま思うと、沖縄のイメージをなんて大げさに考えていたんだろうと、自分のビビリ具合にちょっと嫌気がさしてしまうほどだ。
 現在は、沖縄行きのきっかけをつくってくれた友だちが大阪に帰ってきてしまったため、沖縄での宿がなくなってしまい、足が遠のいた。それでも、沖縄へ行くことは、ちょっとそこまで出かけることのように、簡単だ。

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◎添削のポイント
 ・本題(いちばんおもしろい話が始まるところ)の前に、前置きをながながと入れない。いまの段階では、いきなり本題に入ることが大事。読者の興味を引くには、最初から全力投球。
 ・「私」「思う」「らしい」「かもしれない」「だろう」などの伝聞表現、婉曲表現、「したがって」「だから」「さらに」「また」などの順接の接続詞は、省けるだけ省く。
 ・文章の読みやすさは、ひらがなの使い方で決まる。漢字にしなければ不都合(読みにくい、わかりにくい)だ、という場合でなければ平仮名を使う。
 ・一文と一文のつながりがはっきり伝わるように、ていねいに書く。主語や目的語(何を)などを省略しない。
 ・文章のスジ、テーマ、伝えたいいちばんの内容をしぼって、より具体的なエピソードで文章に厚みを持たせる。今回の文章で言えば、沖縄でどんなことをしたのか、あるいは、沖縄への往復そのものを「旅」の中心にするなら、機内での様子などを書くようにすると、もっとおもしろくなる。

◎講評
 文章構成を考えて書くともっと読みやすくて、読者をひきつける文章になります。いつ、だれが、どこで、なにを、どうした。この関係性をもっとていねいに、整理して書いてみることも意識してください。具体的なエピソードを入れると、より沖縄が近いんだー、という感覚を読者と共有できるようになります。継続的な課題として、題材を掘り下げて、じっくり観察して(思い出して)、ていねいに書くことを心がけましょう。


〈説得力のあるコラムとは〉

 さて、コラムは視点の提示だ、読者に刺激を与えるような文章が書ければ上出来だ。そんな話をしました。そのためには、自分自身が日ごろからセンサーを働かせて、あえて、ほかの人とは違う視点でものごとを見るように努力しなければ「自分の視点」を手に入れることはできません。では、どうすれば、新たな視点を得ることができるのか。どうすれば、みんなが気がついてない景色に気がつくことができるのか。

 坂本竜馬はこんなことばを残しています。
 「衆人が皆善をするなら、己独りだけは悪をしろ、逆もまた然り」

 みんなが右を向いているなら、自分は左を向いてみる。みんなが好きというなら、自分はそれほど好きじゃない、といってみる。いつもそういう天邪鬼な態度だと嫌われるかもしれませんから(笑)、心の中だけでも、そういう天邪鬼気質をもって、楽しんでみてください。きっと、いままでとはちがった景色が見えるはずです。

 新たな視点に気がついたら、そこから見える景色をだれかに伝えましょう。そのときに大事なことは「説得力のある伝え方」をすること。では、説得力がある、ない、をどうやって計ればいいのでしょうか。だれかを説得しようとして、説得が成功するために必要なものはなんでしょうか。いまはやりのマーケティング用語で言えば「エビデンス」、あるいは、「実績」「数字」「統計」「データ」、あるいは、その道の専門家やどこかのエライ人のお墨付き、天皇家御用達、政府機関……。

 そういう、外的要因が説得の材料であることは否定しませんが、でも、じぶんの胸に手を当てて考えてみれば、そういうこともたしかに大事なことではあるけれど、最終的には、「納得できるか」が説得の成功、不成功の基準ではないでしょうか。読み手を納得させるような言葉、データ、書き方、論理、感情、わかりやすさ。いろいろな手法が考えられます。その手法を工夫するところに、書き手の個性が表れる。それでいいのです。

 データや数字を前面に押し出してくるコラムニストはたくさんいます。論理的に自説を展開するのが得意なコラムニストもいます。感情の変化から世の中を読み解く人もいるし、複雑な現象をわかりやすい言葉で解説しようといっしょうけんめいなコラムニストもいます。ユーモアで、読み手を引き込んでしまって、読み手はいつのまにか納得させられてしまう、という文章がうまいコラムニストもいます。なにか一つの決まった形、唯一の正解があるわけではないのです。みんな自分なりの表現の仕方で、読み手を納得させる文章をつくりあげているのです。

 相手に納得してもらえるような書き方ができているか。これからコラムを書く際には、あるいは、書き終えたあとに、ぜひ見直してみてください。きっと、見違えるようなシュッとした文章が書けるはずです。

 さて、今回はこのあたりにしておきましょう。あわせて、エッセイとコラムの参考として、いくつか短めの読み物も紹介します。これまでに学んだことを振り返りながら、いろいろなタイプのエッセイ、コラムを楽しんでください。


寄り道読書:
池澤夏樹『神々の食』文春文庫
※沖縄好きとしては、ぜったいに読んでおきたい(共有したい!)一冊。ぜひ。

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