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【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 6/30

《3 亮介さんとの出会いは》

亮介さんとはじめて出会ったのは、大学生のとき。突拍子もない人間との出会いは、ずいぶんと突拍子がある、ごくごくふつうの出会いだった。

サークルの先輩だった。「社会問題研究会」というサークルで、通称は「研究会」らしい。

なぜ、ぼくはそんなくそまじめな組織に入ってしまったのか。

かわらない政治、おわらない戦争、貧困にあえぐ途上国のこどもたち。

「じぶんなら、こんな状況を変えて、もっといい世界がつくれるはずだ。世界を変えてやるんだ」と意気込んでサークルに入った。

「研究会」はいろんな社会問題の構造や背景を勉強して、それらに対してじぶんたちにはなにができるのか、ということを議論するサークルであった。

「研究会」のなかには個別の問題をあつかう「勉強会」という下部組織が存在した。

「勉強会」では、発展途上国の貧困、国際紛争、過労死やパワハラなどの労働問題、地方の衰退や商店街の活性化など、テーマは多岐にわたった。NPOのイベントやボランティアに参加することもあった。

そして、半年一回のサークル全体のイベントで、「勉強会」ごとに、じぶんたちの研究結果を発表したり、現状にたいするアクションを発表した。

「社会問題研究会」は、ずいぶんとまじめそうな名前をしているが、しょせん、大学生の集まりなので、それなりに色恋沙汰はつきものだった。

まじめに日本の労働環境について語っていても、ある男は、目の前の女性の下着の色や、下着のそのまた下にある人類の宝について想像をめぐらせているのだ。

とはいえ、女性の方は女性の方で、笑顔のうらで、さまざまな戦いが繰り広げられていた。

特定の男性にたいして声色がちがったり、妙に距離がちかいといったような求愛行動がみられたりすると、じつにわかりやすかった。

しかし、ぼくのような鈍感なやつに気づかれるようなヘマをするような女性はすくなかった。

むしろある日突然、カップルが誕生していたり、仲のよい(とぼくがおもっていた)女性同士が口もきかなくなっていた。

事変がおこってからの後手後手の対応になることの方が圧倒的に多かった。

ぼくの目の前には、現代の若者の恋愛事情という社会問題がおきていた。世界よりもまず、変えるべき惨状がここにあった。

そんな男と女のカオスのなか、ぼくと彼は出会った。そしてぼくたちもまた、そんなカオスに身を投じていったのだった。


ーーー次のお話ーーー

ーーー1つ前のお話ーーー




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