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各発達段階におけるトレーニングの在り方#10

前章ではLTADモデルの発達段階におけるトレーニングの在り方『STAGE1:FUNdamental(基礎・基本)』について8項目に沿って解説をしてきました。本章では『STAGE2:Learning to Train(トレーニングすることを学ぶ)』について解説をしていきたいと思います。

STAGE2:Learning to Train(トレーニングすることを学ぶ)

まずは、LTADモデルにおける第二ステージである『Learning to Train』について考えていきましょう。"Learning to Train" とは日本語に訳すならば「トレーニングすることを学ぶ」となります。このステージにおけるアスリートはトレーニングの在り方をしっかりと学習する必要があります。
このステージにおける学習環境は、先々のトレーナビリティ(トレーニングによって能力が向上する可能性)に非常に大きな影響を与えるため、何をどのようにしてトレーニングしていくかについて、コーチは慎重に検討していく必要があるでしょう。それでは、次からは8つの項目に沿って第二ステージ『Learning to Train』を深掘りしていきましょう。

VOLLEYBALL FOR LIFE: LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT FOR VOLLEYBALL IN CANADA

Overall Goal(総合的ゴール)

Overall sports skills and the introduction of certain volleyball skills
(総合的スポーツスキルと確実なバレボールスキルの導入)

バレーボール競技だけに特化して取り組むのではなく、多種多様なスポーツを経験することでそれぞれのスポーツに必要なベーシックな運動能力を獲得することが大切とされます。一方で、バレーボール競技においては最も基礎的なスキルの獲得に向けても取り組むことが重要です。そのため、適切な技術指導とトレーニング環境を提供することがコーチには求められます。この際、コーチはアスリートに悪い癖をつけさせたり、特定の偏った型に嵌め込むようなことをしないよう最大限の注意を払う必要があるでしょう。

Chronological Ages(暦年齢)

Males:9~12  Females:8~11 (男性:9〜12歳   女性:8〜11歳)

日本の学齢で言うと、だいたい小学4年生から小学6年生の間の子どもたちがこのステージに該当します。男女の発達段階の違いから暦年齢には違いがありますが、暦年齢はあくまでの目安と考えることが肝要と言えるでしょう。また、このステージは暦年齢と生物学的年齢の間のギャップが最も顕著になるとも言えます。コーチはアスリートの筋骨格系の発達状況に目を向けて適切なトレーニングを計画していく必要があるでしょう。

Focus(焦点)

Initiation (イニシエーション/始まり)

前ステージでは、実際にバレーボールをプレーすること、遊ぶことに焦点が置かれていましたが、本ステージは、本格的にバレーボール競技に取り組み始める『スタート地点』という位置付けになります。総合的ゴールに「確実なバレーボールスキルの導入」と記載があった通り、プレーを楽しむことは大前提としながらも、バレーボールの最も基礎的なスキルを確実に獲得していくことに焦点が当てられています。

Skill Development(技能発達)

The coordination of the key components of skills and executing them in the correct order is now possible. Movements are not yet well synchronized or under control, and lack rhythm and flow. Execution is inconsistent, lacks precision and deteriorates rapidly when the athlete tries to execute quickly or under pressure.
(スキルの重要な構成要素を調整し、正しい順序でスキルを発揮することが可能になる。プレーの動作はまだ十分にシンクロし、コントロールされてはいない。そして、リズムや流れに欠ける状況である。プレーの遂行にまだ一貫性がなく、正確さに欠け、素早くプレーしようとしたり、プレッシャーがかかったりすると、プレーの質は一気に下がる)

このステージでは、必要な技術指導がなされ、適切なトレーニングを積み重ねていくことができれば、少しずつバレーボールらしいプレーが見られるようになっていきます。しかし、獲得しつつあるスキルはまだ不安定な状況であり、一貫したプレーの安定性というのはこのステージでは見られないことが多いです。
にもかかわらず目先の勝利のため、プレーの安定性を求めてひたすら反復練習を繰り返すといったことをしてしまうコーチは多いのかもしれません。こうしたことで目先の試合で勝利することはできるかもしれませんが長期的な視点で見てみれば、致命的・慢性的な怪我をアスリートに負わせることにも繋がりかねませんのでコーチはそうしたことを理解した上でトレーニング計画を立てなければなりません。
また、プレッシャーがかかるような場面では、一気にプレーの質は下がることもあります。試合の中でそうした状況に陥ってしまったアスリートに対して、コーチがどのような姿勢で向き合うのかといたことも、アスリートの精神的な成長においても重要となるでしょう。

Goal(ゴール)

・Major skill learning phase : basic sport skills should be learned before entering next phase(主要技能習得段階:次の段階に入る前に、基本的なスポーツ技能を習得する)
・Mental, cognitive and emotional development(精神、認知、感情の発達)
・Introduction to mental preparation(精神面での準備)
・Medicine ball, Swiss ball, own body strength exercises(メディシンボール、バランスボール、自身の身体を使った運動)
・Introduction to ancillary capacities(付随的要素の導入)
・Participation in complimentary sports(補完スポーツへの参加)

バレーボールにおいての最も基礎的なスキルを獲得することも目標とされると同時に、バレーボール競技だけに特化するのではなく、他のスポーツも経験することによって、スポーツ全般における運動能力を高めることが重要であることを強調しています。また様々なスポーツ経験を積み重ねていく中で、精神面や認知面、感情面といった非認知的なスキルを向上させることも目標として設定されています。

Discipline Integration(専門分野の統合)

Separate indoor and beach programs do not exist
(インドアとビーチの棲み分けは存在しない)

第一ステージと同様に、インドアとビーチを棲み分けることはありません。もしも環境さえ整うようであれば、インドアだけではなくビーチのような環境でバレーボールをする経験もできれば、長期的な視点でのプレーヤーの成長に寄与することでしょう。

Periodization(期分け)

Single periodization
(単一期分け)

地域で開催される大会などに出場することも出てくるステージではあるが、特に大会に向けての計画的な準備を行う(期分け)といったことはしません。あくまでも、大会に出場して試合を楽しむということが大切です。

Training to Competition Ratios(トレーニングと試合の比率)

50:50

第一ステージでは、トレーニングと試合の比率について具体的に言及されていませんでしたが、第二ステージではトレーニングと試合の比率については半々が良いと言及されています。トレーニングだけでは学ぶことのできないこと(精神的な面での成長など)を試合を通して学びましょうというのがこのステージになります。

(続く)

▶︎雑賀雄太のプロフィール

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。