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心が強い人なんていない

私には時々「まっさらな日」が必要で、そういう時、丸一日ほとんど何もせず眠っているだけの時間を過ごす。

そのまっさらな日を計画的に実行することはまず無くて、体調不良と同じように、ある日突然動けなくなる。ただ、風邪はひいてないし、具合が悪いわけでもない。社会的にはあまり赦された行為ではないので「体調不良」としてきたけど、もっと正確に言葉を与えるなら「何にも出来ない日」。

昔から自分にはRPGのHP的なものがあるような感覚がある。体力のバーと気力のバーが2本。体力の方は、運動したり生活習慣で母数を増やせる感覚があるから、運動習慣をつけたら滅多に疲れなくなった。階段で息切れすることもそうそうない。でも、気力のバーの方は生まれ持った資質が全てで、増やすことができない。(たぶん) そして私は残念ながら気力の方のバーが凄く少なくて、わりと簡単にゼロになる。

大人数が集まるご飯会に参加する→ゼロ
プライベートで人に連日会う→数日後にゼロ
うるさい店に長く滞在する→ゼロ
変に気を遣う人と過ごす→マイナス100

その場は大体楽しいことが多いから、若い頃はゼロになることを見越せずにキャパオーバーの約束をして人様に迷惑をかけてばかりでした。

気力がゼロ以下になってしまうと、回復させる手段が「寝る」しかないので、私は起き上がれなくなり、ほぼ一日潰して回復にいそしむ。それが私の「何も出来ない日」。

先週、奥田英朗さんの短編小説「コメンテーター」を読んだ。トンデモ精神科医・伊良部一郎のもとを訪れる患者たちの悩みと、それに対するクスッと笑っちゃうようなやばめの行動療法がクセになる作品。このシリーズはすでに3冊あって、今回のは4冊目となる最新作です。デイトレーディングの画面に釘付けになって日常を楽しめなくなった人とか、真面目すぎるピアニストが広場恐怖症になる話とか、東京に本当に居そうな「誰か」の話が次々と出てくる。唯一、伊良部先生だけは本当に居そうとは思えないのが作品をファンタジーとして仕立て上げている。

それで改めて思ったのは、私に限らず人間はみんなそれぞれ何かしらの弱さを抱えているんだということ。
私たちはそれぞれお互いの心がどんな風かなんて知ることはできないから、自分の思考のクセとか弱い部分を、良くも悪くも特別視し過ぎてしまう傾向にある。だからHSPとかADHDとかっていう気質や一定の症状を表す単語が必要以上に主張されるのかもしれない。そもそも心が完璧な正円だったら、私たちはもう人間をやる必要なんてない。
世の中には、どこかに穴が空いてたり、凹みがあったり、あるいは凄く変なかたちをしていたりする心を持った人しかいなくて、それが最近色んなカタチでラベル付けされるようになり、お互いがお互いの凹みやらなんやらを言語化して共有しやすい土壌が出来上がったのだろうと思う。

じゃあ、なぜわざわざ自分の気質を言語化して他人に伝える必要があるかって、これはもう、シンプルに日本社会が厳しすぎるんじゃないでしょうか。

自分にも他人にもどれだけ厳しくなれるか、というところで日本は群を抜いて大変な文化なような気がする。そしてその厳しさというのは、自分自身へのストイックさとは少し違うベクトルで機能していて「大人たるもの、このくらいの常識は守れて当然」という数多くの暗黙のルールを守り切る方に注力している。

だから、そこにフォローしきれない私たちはフォローできない事情を伝えなきゃならないし、その手段としてHSPとかADHDみたいな単語は超便利!!!!!!なんじゃなかろうか。
人間誰しも、まぁそんな事もあるよね。ってお互い言い合える社会ならば「すみません私⚪︎⚪︎⚪︎なので〜」はいらない。

かくして、冒頭の私の超気力が少ない体質にはHSPみたいな単語が該当するみたいだけど、SNSに蔓延る「HSPさんあるある」の大部分が該当しないので、言葉が流通したタイミングで自身を表す単語として遣うのはやめました。

代わりに、ごく少数の身近な人には細々と苦手なことを伝えて、理解を得ています。そういう地道な信頼関係の構築のほうが結局長い目で見てもちゃんと機能するんだよね。

ただ、自分の気質に対して単語が存在することを知って安心したり、これって私だけじゃ無いんだ!って思ったりするきっかけにもなると思うから、ゼロか100かの話じゃなくて、あくまでも中間、グレーの濃度をすこし優しく調節したいだけ。少なくとも、単語が存在しないと他者から赦しをもらえないような厳しさみたいなものはもう少し中和されると良いなあ。

一定の方向に向けて社会が厳しすぎるのがそもそも日本文化なのか?、それはどこから来ていて、緩和する余地はないのか?っていう文化人類学?的なことを調べる大人の夏休みの宿題みたいなことはまたいつかやってみようと思います🔍

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