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【ミステリーレビュー】館島/ 東川篤哉(2005)

館島/ 東川篤哉

ユーモア・ミステリで知られる東川篤哉による長編ミステリー。



あらすじ


天才建築家・十文字和臣の突然の死。
別荘の螺旋階段の下で発見された彼は、転落死ではなく墜落死であったという。
建物の周囲に墜落の痕跡はなく、真の犯行現場も不明なまま事件は暗礁に乗り上げ、半年が経過していた。
遠縁である若手刑事の相馬隆行は、康子からの招待によって再び事件現場に舞い戻り、女探偵・小早川沙樹と出会うも、事件関係者が集まる館で、再び不可解な殺人事件が発生する。
警察が嵐で足止めされる中、隆行と沙樹は不思議な館の謎に挑む。



概要/感想(ネタバレなし)


ユーモア・ミステリー×館モノ。
瀬戸大橋が架かる前の瀬戸内海に浮かぶ島が舞台となっており、時代的には刊行年よりも20年ほど昔の話。
舞台背景も、うっすら事件に関連していくうえ、携帯電話があればまた違った展開になっていただけに、なかなか練られた舞台設定であったと言えよう。

登場人物のコミカルなやり取りが押し出されているので、読み口としてはライト。
登場人物のキャラクターが極端に尖っているということはないのだが、切り替えの早い隆行と、気が強く世間ズレした沙樹、やや天然のお嬢様・奈々江も含めた探偵チームの構成が絶妙で、重々しい館モノの雰囲気を帳消しにするほど会話を回してくれる。
別荘内の人物に殺人犯が、という状況で緊張感や緊迫感が薄いのは、そのハラハラドキドキに魅力を感じる読者層にとっては一長一短であるものの、作品の個性となっているのは間違いない。

もっとも、ユーモア過多な書きぶり以外は、本格ど真ん中。
館の中で墜落死体が発見されるモノローグ、嵐の孤島で船が出せないクローズドサークル、事実上の密室で行われる殺人。
そして、奇才の建築家によって建てられたトリック館ときたものだ。
ここまで堂々と、仕掛けがあるぞ、と主張しているトリック館も珍しいのだが、あと一歩のところで真相が掴めないむず痒さもちょうど良い。
強いて言うなら、1980年代当時の倫理観、結婚観などが前提となっていることもあり、多少の頭の切り替えが必要。
ただし、それも館モノという古典的な設定が、脳内でのタイムスリップを容易なものにしていたのでは。



総評(ネタバレ強め)


ミステリー読みでなくても、この館の説明を見れば、何かあるぞ、というのは理解できるだろう。
そのぐらいわかりやすく仕掛けの存在が提示されるので、その正体は朧気だったとしても、トリックの方向性としては推測できたのでは。
作中に描かれる3つの事件、すべてがこのトリックの応用。
あからさますぎてつまらないと取るか、同じタネから異なる3つの花を咲かせるアイディアを面白いと取るか。
紙一重かもしれないけれど、トリックと犯人が直結しないこともあって、フーダニットという謎は残ることも踏まえ、ライト層を取り込むにはほどよい難易度と捉えておきたい。

どのような役割分担で事件解決に持っていくのかも気になったが、解決編まですれ違いのドタバタ劇の中で、というのが本作らしいところ。
説明不足の中で犯人が勝手に納得してしまって、狐につままれたまま、真相が語られることになるのは、読者がもっとも隆行に感情移入できる瞬間だったかもしれない。

刑事と探偵が協力することでの面白さに加えて、探偵になると言い出す奈々江。
続編への含みは持たせているように見えたが、80年代という時代性がそちらの面ではネックになったか、長らくノンシリーズ作品となっていたのは、もったいない限り。
事実上の続編として2022年に満を持して刊行された「仕掛島」も、このふたりが主人公というわけではないようで、もっとこの時代、この3人の掛け合いが見てみたかったかな、という寂しさが少しだけ残った。


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