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"これから"が"これまで"を決める 「この星で生きる理由」感想

心が洗われるような読後感。
久々に心を掴まれるような素晴らしい本に出会った。

理学博士であり、天文台も手掛けている佐治晴夫氏によるショートエッセイ集。雑誌に連載されていたものをまとめたものだ。
1話が2~3ページととても読みやすい。
物理学や数学の目線から私たちの日々の暮らしを捉え、まさにタイトル通り「この星で生きる理由」を模索していく。

どの話も素晴らしいのだが特に印象に残ったのは、この本で繰り返し語られている「私たちを形作る元素やエネルギーは138億年前のビッグバン、すなわちたった一つの光による宇宙の創造によって生まれた」ということ。
家族、生き物、そして赤の他人…。身の回りも全てのヒト、モノは源流をたどっていけばたった一筋の光から始まっている。
そう思うとなんだか大らかな気持ちになり、嫌いなあの人のことも許せるような気がしてくるから不思議だ。
ドイツの哲学者ショーペンハウアーは、私たちの欲望は「生きようとする意志」でありすべての生き物に共通していると提唱した。
欲望も一つであり、私たちを形作るものも元々は一つの光。
私たちが個人でいること、エゴを持っていることに執着しないことで、見えてくる世界が変わっていく気がする。

本書の最初のページには、遥か彼方の宇宙を旅している探査機「ボイジャー1号」が撮影した地球の写真が載っている。
65億Km彼方からの宇宙空間から撮影された地球は「Pale Blue Dot」と通称されるほどただの淡い点にすぎない。周りは言葉通り暗黒である。
宇宙規模で見ると片田舎の銀河のミジンコのような小さな星で、私たちは日々争いあっている。
しかしどんな時でも私たち地球人は孤独なことを忘れてはならない。
孤独だからこそお互いを大切に、まさに「共依存」していかなければならない。

また、記事のタイトル「これからがこれまでを決める」という言葉も、本書のとあるエピソードに書かれていたものだ。
自ら歩んできた過去にどのような意味を与えるか。
それは今現在を生きている私の行動にかかっている。
未来でも過去でもなく「今ここ」を大事にする。
あらゆる心理学や自己啓発の本にも書かれている定番の言葉だが、改めて人生のうえで大事なキーワードなんだなと再確認できた。

本書には、私たちが思いやりをもち、幸せに生きていくためのエッセンスが詰まっている。
この先の人生で躓いたときに何度も読み返すことになるであろう、心の処方箋のような本だった。

生きることに疲れた人、対人関係に悩んでいる人は是非読んでほしい。

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