見出し画像

144. リキッド・スカイ 【映画】

前から気になっていた奇想天外映画祭、ようやく行くことができました。
観てきたのは、今回の目玉(多分)のカルト映画「リキッド・スカイ」。

ビジュアルが主演のアン・カーライルの容姿がどストライクだったのが観覧の決め手でしたが、セックス・ドラッグ・暴力が直球で描かれていそうだったので、ちゃんと最後まで観られるかしら……と一抹の不安も抱えていました。
でもそんな心配はどこへやら、最初から最後まで目が離せない、サイケでエキセントリックな映像とトリップ感を増幅させるエレクトロニックミュージック! わたし的には今年観た中で1、2を争う良作でした。

人間の絶頂期に脳内で分泌される快楽物質を求める、形なきエイリアンに目をつけられたモデルのマーガレット。彼女は夜な夜なクラブで遊ぶ、白塗りに赤や青で奇抜な模様を描いたデヴィッド・ボウイとかニュー・ロマンティックのバンドマンみたいな格好の中性的な女性(実際作中でボウイより中性的というセリフが出てくる)で、とても魅力的。その魅力に吸い寄せられて、老若男女問わず彼女の周りには人が群がる。
彼女はいつも何か不満げで快楽を求めている。けれどそれを勘違いした男たちに力づくでしたくもないセックスを強要され、淫売のレッテルを貼られている。
ずっと耐えるしかなかったのが、ある日エイリアンの作用でセックスをした相手を消滅させることができるようになった。彼女はこれまで性暴力を浴びせてきた男たちに復讐し、最後にはエイリアンと同化しようと望む。

ストーリーを書くとチンケなんですが、大事なのは筋ではなくて空気感。
ネオンがきらめき怪しいお面の飾られた部屋や、奇抜な格好をした人でごった返したクラブ。アン・カーライルが一人二役で演じるマーガレットとジャンキーのジミーという二人の美形、その目を引くファッション。全編で流れるシンセサイザーの浮遊感溢れる音。端的に言ってDOPE。
アメリカのニュー・ウェイヴ事情はよく知らないのですが、この空虚でぶっ飛んだ空間を体感できた人たちが羨ましいです。若い時特有の痛々しさとカオスは、ずっと憧れていてでもそこまで振り切れない歯がゆさがあり、こういう作品に触れると少しだけ近付けた気持ちになるのです。段々鈍ってきた感受性もちょっと取り戻せるような、そういう錯覚。
作中ではマーガレットが誰も自分を理解してくれない・しようとしてくれない絶望感から人外のものによる救いを求め、救われるシーンで終わりますが、ここには何とも言えない切なさが漂います。80年代を体現しながら、いつの時代の若者にも共感できる映画なのではないかと思います。(無論、日頃から闇に親しんでいる人限定でしょうが……)

あと、セックスシーンは幾度となく出てくるけれど、どれも映しすぎず、またマーガレットの佇まいはエロスを纏っているのに不感症故か官能的じゃないから、厭らしさを感じません。(そもそも大体が強姦シーンなので、圧倒的に嫌悪感が優っています)エログロが強くないカルト作品が至高です……。

セックスによって死に至るという設定は、ちょうどその当時発見されたエイズが元ネタ。エイズのことなんて全然頭になかったので、パンフレットを読んでからああなるほどと思い至りました。当時の空気の中で観ていたら、もっと登場人物たちの乾いたヒリつきを身近に感じられただろうにと思うと残念です。
でも今改めてその世界に浸るのも、それはそれで楽しい。2000年代初頭にエレクトロクラッシュというニューウェイヴっぽい音楽が一瞬流行ったらしいという情報を得たので、その方面も少し開拓してみようと思っています。


いやはや、深掘りしようと思えばどこまでも掘れるし、空っぽの頭で色と音の洪水に身を任せるのも楽しい作品でした。
できればDVDを買って何度も陶酔感に浸りたい作品です。
何となく雰囲気が似ている気がして、ボウイ主演の「地球に落ちて来た男」も見返したくなりました。

ではまた。

この記事が参加している募集

映画感想文

最後まで読んで頂きありがとうございます。サポートは本代や映画代の足しにさせて頂きます。気に入って頂けましたらよろしくお願いします◎