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155. パラレル・マザーズ 【映画】

※ネタバレのオンパレードです。これから観にいく予定の方は読まないことをお勧めします。


同じ病室に入院し、同じ日に出産したシングルマザーのジャニスとアナ。
再会を誓って退院するも、ジャニスはDNA検査によって、病院で子供が取り違えられ今自分の元にいるのが自分の子ではないと知ってしまう……。

さあジャニスはどうするのか? そう投げかける予告編だけを見て本編を観に行ったので、最初の数分はまさか入るシアター間違えたか、とハラハラしてしまいました。
だって冒頭は、ジャニスが仕事で会った法人類学者に、故郷の地にきちんと弔われることのないまま放置されているスペイン内戦の被害者である先祖たちの発掘調査を依頼するシーンから始まるんです。
その後この法人類学者とジャニスが恋に落ちて問題の子供が生まれるわけですが、しかし“スペイン内戦”は“母親”を描いたこの映画のもう一つの主題だったのでした。

ジャニスはバリバリ仕事をしながら、辱められている先祖たちと、血の繋がっていない我が子セシリアという、過去と現在の血の問題に心を砕き暮らしています。ご先祖をきちんと埋葬しなければ、という強い信念を持ちながら、生活の中では多くの悩みや迷いに翻弄される。とても人間らしいその姿に、観ている側は素直に作品世界に惹き込まれていきます。

子供の取り違えという単純なアクシデントは、ジャニスがその真実をアナに告げられないでいるうちに、どんどん複雑化していきます。アナの子供(つまりジャニスの子供)の死。合わないベビーシッターの学生。夢追い人でアナと上手くいっていない母。好きでもない男にレイプされたというアナの過去。
多分ジャニスもいっぱいいっぱいで、セシリアの本当の母はアナなのに、と自責の念もあって、アナを住み込みのベビーシッター兼家政婦として雇ったのでしょう。だから精神的に不安定な17歳のアナと性愛を含めた親愛の関係になった時は驚いたし、ただの傷の舐め合いかと思いました。

でもジャニスにとって、本当にアナは大切な人の一人だったのです。
最後まで真実を言わないでそのまま二人で子供を育てても良かったでしょうし、わたしはてっきりそうするのだとばかり思っていました。血が繋がっていないからといって子供を愛せなくなるわけではないし、ジャニスはセシリアのことを心から可愛がっていましたから。
だけれど子供への愛に勝るとも劣らないアナへの愛情と、そこからくる良心の呵責が取り違えの告白という一大決心をさせたのです。

アナはショックですぐさま家を出て行きますが、そんな彼女に醜く取り縋ったりしないジャニスの姿から決心の強さが窺えました。
落ち着きを取り戻したアナがジャニスに連絡を取り、二人が和解できたのも、アナがそんなジャニスの心情を理解したからだろうと思います。

ラストシーンでは二人がまた良き友人になれたことが分かってほっとすると同時に、新たな希望も芽生えました。ジャニスが正式に付き合い始めた法人類学者との間に、次なる子を懐妊したというのです。子供はまた生まれてくる、という真理が、前を向いた彼女たちにとって希望であることが、何だか泣けてしまうほどに尊く感じられました。

ところでこの映画はデザイン面も優れていて、そこも見所となっています。
血の赤、情熱の赤、愛の赤を背景に抱き合う二人の“母”の姿に、黒と白のボーダーがアクセントとなっているモダンな印象のポスター然り、作中でもファッションや室内装飾、小物に至るまで色彩や図柄にこだわりが感じられます。
主人公のジャニスはわりにシンプルな出で立ちですが、周囲の人々や背景の強いコントラストや溢れ出る開放感にスペインらしさを感じます。(ディオールのコレクションアイテムなども使用されているとのことで、各方面へのアンテナが敏感だったらきっともっと楽しめたはず……自分の無学が口惜しい)
また、田舎で供される、何か素朴なおやつなどに、飾らない現地の生活が垣間見え、もともと行きたいと思っていたスペインへの憧れがますます募りました。

母親のドラマは一見の価値ありですが、その他デザインやスペインに興味のある方も得るところの多い映画だろうと思います。

ではまた。

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