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ⅸ. 本のゆくさき〜いま、ZINE・リトルプレスの届け方は〜

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、さまざまなイベントが開催中止となった2020年。国内外各地のブックフェアも開催中止や延期となるほか、オンラインでの開催も始まっています。そうした状況から、ZINEのナノ・パブリッシャー「crevasse」は、アーティストによる自主制作出版物(ZINE・リトルプレス)を紹介する映像ストリーミングサービス「AP (Artists Press) Streaming」を構想。「Vegetable Record」による3曲のオリジナル音源から参加アーティストがBGMを選び、映像で伝えるZINE・リトルプレスのライブラリをめざします。

APStreamingに参加した『ありふれたくじら』Vol.6の映像と、現在のZINE・リトルプレスの動向について、crevasse・大滝航さんにお聞きしました。

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是恒:今年に入って新型コロナウイルス(COVID-19)の影響が各所に広がりました。これまで参加されていた海外のアートブックフェアではどのような変化がありましたか。

大滝:海外渡航が困難なのでなかなか行けない状況です。各地のアートブックフェアも4、5月ぐらいから続々と中止・延期が発表されました。その中で4月にcrevasseでは、Virtual Assemblyがいち早く発表したオンライン・ブックフェアに参加しました。Virtual Assemblyではウェブサイトを立ち上げ、出展者がマイページを作るという形態でした。7、8月頃から中国などでは国内イベントとして開催するブックフェアはありました。ヨーロッパでも国際的でないイベントには中止しなかったものがあったようです。その後、Printed MatterTOKYO ART BOOK FAIRがオンラインでの開催を発表しました。この2つは国際的なアートブックフェアとして、今の感染状況を踏まえた上で、オンライン開催としてのより良いフォーマット、モデルケースとなるものを打ち出してくれるだろうと見ています。TOKYO ART BOOK FAIRの企画段階ではウェブデザイナーだけではなく建築家も入りながら、3D空間として設計しているというので、すごく面白いなと思っています。イベントをオンラインで再現するとは別の形をどうつくっていくかというところを検討しているようです。

是恒:空間から考えるというのは面白そうですね。今回、『ありふれたくじら』最新号の紹介映像を作っていただきました。『ありふれたくじら』の挿絵は原画が刺繍作品なので、印刷された布と糸のテクスチャーが間近に映像で見られるのが魅力的ですね。音楽は3曲の候補を聴いてみて、海や水しぶきのような印象があった1曲を選びました。この映像の制作でイメージされていたことはありますか。

大滝:本を再現するということを考えると、そもそも動画には無理があると思っています。本は、誰かが開くことによってしか始まりようがないので、動画は別物であっていいかなと思っているんです。僕らが作っている動画は、本の手触りとか柔らかさに加えて音楽も入ってきます。それによってcrevasseとしての統一感を出すことを意識してやろうとしています。写真でも本の構造は伝わりますが、手触りがうまく伝わらない。crevasseで扱っている本には特殊な構造のものもあります。その写真では伝わらない部分をしっかり伝えられるメディアとして、動画を使おうと考えました。
 今回の『ありふれたくじら』Vol.6の動画では、本の内容の説明はしていません。映像に撮ってみると、映像化したほうが刺繍の感じが伝わるなと思ったので、クローズアップで撮って刺繍の裏表が分かるようにしました。テキストの中でも「鯨」という文字が入ってくるほうがいいかなとも考えました。感覚的に「あ、鯨の本なんだ」と伝わるかなと。音楽は本当に良かったなと思っています。僕もこの曲を聴いたときに水の中のイメージがありました。深い水というか、ちょっと沈むようなイメージがあったので、いいなと思いましたね。
 映像化することによっていろんな要素が入ってくると思っています。音楽もそうだし、カメラマンが入ってくる可能性もある。この映像では編集も僕がやっているけど、編集は違う人がやるという可能性もある。本を中心に何か別のコンテンツとして開かれるかもしれないなと思っています。今回は、Vegetable Recordに曲を作ってもらいました。別ジャンルの音楽も入ってくるとより開かれた形になると思っています。映像化することで、メディアに流れやすくなり人目に触れやすくなると思います。最初に話したように、この状況で海外に出られないから、本を紹介するために映像にすることにも可能性があると考えています。

是恒:今回の映像を見て、もっといろんな本と音楽の連なりとして増えていくといいなと思いました。書店や図書館に並んだ本を物色するように映像として見てみたいなと思いましたね。私は今回、「そこでことばがうまれる。」というタイトルの企画で、いろんな方と『ありふれたくじら』の最新号について話した記事を公開しています。今回作っていただいた映像も含めて、自分の作品である本が他者によってどう表現されるのかとか、どう読まれたり、紹介されるのか、ということに興味がありました。映像となるとどうなるのか、ということも気になっていました。

大滝:僕もそういうところに興味があります。映像化も、いろんな人が関わるから面白いし、可能性が広がるだろうなと思っています。Vegetable Recordの三上さんにもそういう話をしていました。作ってもらった3曲もいろいろと考えられていて、曲は違うんだけど、3曲が入れ替わる再生リストになっても楽しめるように設計にしてくれています。映像として集まって、プレイリストになったときのことも考えてくれていたんですよね。多くの人が関わって別のものになっていくということが僕も好きなところです。

是恒:ブックフェアでも、個々のリトルプレスやZINEはそれぞれが完成されたものですが、完成された小さなものが集まることで、また新しい何かになっていくようなイメージがありますね。

大滝:ブックフェアだとテーブルの上に本が並ぶので、出展者やチームのセレクションが本に与える影響はすごく大きいと思っています。是恒さんの本はcrevasse以外の書店等でも扱われていて、本棚の中にどういう形で収まっているか、どういうコーナーに置かれているかでも、印象が変わってくると思います。本屋さんが持つイメージもありますね。

是恒:今後こうしたリトルプレスやZINEが流通する方法は、どう変わっていくと思いますか。今、多くのイベントがオンライン化しているけど、リトルプレスやZINEにはオンラインに移らない、本という物体としての魅力がある。今後、物としての本がどうやって、人の手から手に渡っていくのかなというところに興味を持っています。

大滝:本の流通の専門的なことはわからないですが、例えば僕らの扱っている本の中には、イギリスから送ってもらった本があります。作者がZINEを作って、地元・ロンドンの本屋にそれを渡して、そこから香港の本屋に送られて、それが日本に送られてきている。ZINEというものは、そうした国際的なネットワークに乗っている。レコードとかと同じで、ルートがあって流通しているんです。
 僕は日本にいて、台湾や中国に行ったときに、ZINEのように自費出版されたものに対してエンドユーザーになっていると感じています。海外で作られて売られているものを、良い・悪いという形で受け取る側になっているというところがある。それは国内のアーティストにとってはあまり良いことではないでしょう。日本からZINEやリトルプレスを送って喜ばれたり、交換できるような、そういう国際的なネットワークの中に入れればいいなと思います。そうなれば、本屋ZINEに限らず、いろんなアーティストの可能性が広がるかなと思います。

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https://www.youtube.com/channel/UCvONBsSOl61MbSFmvv1qJqg/videos
(上:crevasse・YouTubeチャンネルの動画一覧では、crevasseが扱うZINE・リトルプレス を動画で紹介する。)

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crevasse(クレバス)
茨城を活動中心にするZINEのナノ・パブリッシャー。オンラインのセレクトショップをベースにして、国内外のアートブックフェアに積極的に参加し、現地でまた新たな“crevasse=深い谷にいる”アーティストとその出版物を発掘するなどしています。​
https://www.crevasse.info/


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