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耳屋⑥-1 人生で一番怖い話

ワタシは駅から少し離れた住宅街のカフェで、耳屋に話を聞いてもらう事にした。
そのカフェは、ちょうどよく薄暗い店内にアンティークなテーブルと椅子、そして本があって、ゆったりとした時間が流れている。

ワタシは、アイスのカフェラテ、向かいに座っている耳屋は、アイスのチョコレートミルクを頼んだ。

…もう話し始めても良いの?

「はい。いつでもどうぞ。」


ワタシは、店員が飲み物を置くと同時に話し始めることにした。

当時、新入社員だったワタシは、会社で借り上げた、2DKの部屋に同期の子と2人で住んでたの。
同様に他の同期の子も、近所の似たような間取りの部屋に2人で住んでた。

で、今から話すのは、近所に住んでた同期のオオウチとフクちゃん宅で起きた話。

その日、フクちゃんは有給を使って実家に帰ってたから、オオウチは家に一人だったんだ。
夜の11時頃にオオウチは、ベランダの窓をコツコツとノックをする様な音を何度も聞いた。

風かな〜??

でも、そんなに風が吹いてる感じもしないし、ベランダに窓に当たる様な物も置いてないのにな…って思いながら、その日はそのまま布団に入って寝てしまった。


翌朝、出勤の準備をしてる忙しい時間に、実家のお母さんから電話が来て…

「あなた、大丈夫?」

「昨夜ね、あなたの家のベランダに悪い何かがいる夢を見たの!」


職場で、オオウチからその話しを聞いたワタシと同期のマサミは、ぞわ〜っとなりながらも、その日オオウチの家に泊まりに行く事になった。

オオウチの同居人のフクちゃんが帰るのは翌日の予定だったため、怯えたオオウチに頼み込まれた事もあるし、好奇心もあった。

6畳間にオオウチとマサミとワタシのオンナ3人でワイワイしてたから、結局、その夜は特に何もなかったな。

…年頃のオンナ3人が夜にするのって、恋愛話になっちゃうでしょ??

ワタシは当時、付き合うか付き合わないかでちょっと微妙な関係だった人との事をすっごいつっこまれちゃって。
恋愛話が苦手なワタシは、窮地に立たされて、思わぬ苦しい目にあってしまった。

さらに翌日、オオウチの家から普通に3人で出勤して、職場で冷静になったオオウチとマサミから、


「昨日は、ゴメン。つっこみすぎた」って。

別な意味で、恐怖な体験だったわ…。


ねぇ、耳屋さん。
このまま、もう少し話してもいい??
いわゆる、延長って可能?

耳屋は時計をチラッと見て、

「大丈夫です」

と、小さい声で答えた。


家庭があるような世代になると、話したい事を話したい時に話せる機会がなくならない?


まあ、耳屋さんはまだ若そうだから、そんな事もないのかな。

耳屋は、その質問には特に何も答えずに、少しだけワタシを見た。



…じゃあ、話の続きって事でもないんだけど、マサミの話をさせて… 。


つづく

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