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お前も『名もなき野良犬の輪舞』で男と男の関係に滅茶苦茶にされろ


自粛期間やら世の中のあれやらで世間の憂鬱ムードがさらに引き伸ばされるのかと内心うんざりしている中、俺は一本の映画を見た。
評判が良かったこともあり手を取ったその映画は韓国製ノワール『名もなき野良犬の輪舞』だ。
「これで質の高いバイオレンスが摂取するぞ!」そんな無防備なボンクラオタクの俺は裏社会に生きる男と男の関係を前に滅茶苦茶にされてしまった。


二人の男が出会ってしまう

密輸組織のNo.2のジェホは、服役中の刑務所でギラギラと野心を燃やす青年ヒョンスと出会う。ある時、窮地に陥ったジェホを救ったヒョンスは彼の腹心として組織の傘下に入る。固い絆で結ばれた二人は、出所後に組織を乗っ取ろうと画策するが、それぞれの抱えた秘密が波紋を起こすことに。裏切りと策謀が渦巻く裏社会は二人の関係を幾重にも変えていく。

映画の前半は刑務所でジェホとヒョンスが関係を築き、様々な試練を経て信頼を深めていく過程と、出所後に二人で密輸組織の中で影響力を広げてく様を交互に切り替えて過去と現在を行き来する構成になっている。「人生で重要なことは背後から来るものだ」のような洒落た台詞回しと小気味良い会話の応酬に、スタイリッシュな演出とテンポの良く進むストーリー展開に休む間もなく魅せられる。

そんな中、猜疑心の強く、誰も信用しないと公言する冷徹極まりないジェホが徐々にヒョンスに心を開いていき、対するヒョンスも年の離れた友人のようであり、父のようでもあり、頼りになる兄貴分の彼に惹かれていく。

しかし、後半ヒョンスの抱える複雑な事情によって二人の関係は急展開を迎えていく。さらに組織の方も大きな変革を迎えようとしていた。一体ジェホとヒョンスはどうなってしまうのか。衝撃のストーリーに目が離せない。


ソル・ギョングの存在感

この映画で最も存在感があるのは、ジェホを演じるソル・ギョングであろう。
普段は捉えがたい飄々とした性格で息子ほど年下のヒョンスの不遜な態度にもヘラヘラと答える軽いノリの中年ヤクザだが、一度スイッチが入るとどんな残虐な暴力や殺しも辞さない冷徹な暴力人間に切り替わる恐ろしさ。前述の「人生で重要なことは背後から来るものだ」や彼の人生訓とも言える「人を信じるな。状況を信じろ」といった台詞がそんな底知れぬ男の貫禄を確固たるものとしている。ただ、誰も信用しない強者の彼も裏社会の切った張ったの殺伐とした世界でただ金を稼ぐために命をかけていくことに虚しさを感じている。そんな彼の空虚なパーソナリティをソル・ギョングは乾いた大笑いで表現する。ジェホは全編に渡って状況に構わず大笑いをする。その笑いは全く喜怒哀楽が浮かばない乾いた笑いなのだ。ソル・ギョングは笑いひとつでジェホという男の深みを作り出している。まるで『ジョーカー』のホアキン・フェニックスを彷彿とさせる笑いの演技もこの映画の見所の一つだ。


対するヒョンスを演じるイム・シワンも負けていない。第一印象はシュッとした大学生という印象で、こいつがアウトローの世界で生きていけるのかよと心配になるほどだ。だが実際は、目上の人間に対しても不敵な態度を崩さず、どんな窮地でも抜け目なく勝機を見出すヒョンスはジェホの相手役としてこれ以上ふさわしい奴はいないだろうと思わせる。ちなみに腹筋の割れた半裸も見せる。

この『名もなき野良犬の輪舞』はソル・ギョングとイム・シワンのバチバチのやり合いもストーリーの緊張感を底上げして素晴らしい。


とにかく自粛疲れでどこか気が滅入っている人はこの映画を見てバイオレンスと男同士の関係に滅茶苦茶にされろ!!!

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