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オリジナル短編小説「私の愛した犬たちへ」

私はこれまでに3匹の犬を飼ったことがある。
最後の子が死んでしまって、
もう5年は過ぎてしまったか…。

プライドが高くて凛々しかった柴犬
とても優しくて賢かったビーグル犬
わがままでチャーミングだったミックス犬

最初の柴犬は自分が幼すぎて
まだ少し犬が怖かったけれど
私はどの子も心から好きだった。
 
実は2匹目と3匹目の子たちは
今も私のそばにいてくれている。
あまり人には話さないけれど、
いつもそばにいてくれるのだ。
それは守護霊、と呼べばいいのだろうか?

私はその手のことに疎いのでわからないが
亡くなって間もない頃は憔悴している私を
朝仕事に遅れぬように起こしてくれたり、
インフルエンザで苦しむベットサイドまで
心配して走って来てくれたこともあった。
でも、大人になり恋愛したり結婚したり
だんだんそばにいる事は分からなくなった。

私は結婚して母になっていた。
2人目の子を生んだあと間も無くの雨の6月。
夢に久しぶりに出てきたビーグル犬が言った。
「8月まではそばにいてあげるね」

え?!とびっくりして私は飛び起きた。
夢に出てきてくれたのは本当に久しぶり。
そしてその言葉を反芻する。
「8月まで?どうして8月?」

それと、そもそも、あれからもずっと
そばにいてくれたのか!ということを
あらためて知って、驚いてしまった。
だってビーグル犬が亡くなってからもう18年。
あの子は癌で11歳で天国にいってしまったので
生きていた年数よりもずっと長く、
私のそばにいてくれたことになるではないか!

「そんなに長く守ってもらって、申し訳ない」
なぜ8月まで?の疑問の後にすぐ浮かんだ気持ちはそれだった。

確かに私は3匹の中でも最もその子を愛した。
ちょうど自分が思春期に入る6年生に迎えて
親にも兄弟姉妹にも言えない悩みや秘密を
歳の近い姉のように慕ったその子に打ち明けて来たのだ。
「2匹目と3匹目がそばにいてくれている」
と表現したのも、
実は3匹目を母がペットショップで買ってきた時
私はその前の子のことが忘れられなくて
はじめは心から愛することが出来なかった。
ビーグルとキャバリアのミックスの子犬は
世界中の誰が見ても愛らしかったというのに。

でも、ある時ふと
子犬を撫でている時にその子の中に
「2匹目のビーグル犬」の存在を感じたのだ。
「あーなんだ。この子の中にいるんだな」と。
それから私は素直に愛する事が出来た。
それって3匹目の子に失礼なのでは?と
思われてしまうかもしれないが、
本当にその子の中に存在を見る事が出来た。
だから、2匹目と3匹目は私の中ではひとつ。

そう考えれば、2匹の合計で
生きていたのが23年。
その後私のそばに5年。
どちらにしても、本当に長い期間だ。

「申し訳ない」と言うのは
これ以上ないほどに大切にしたけれども、
ここ数年は私が日常の忙しさにかまけて
彼女たちのことを忘れかけていたから。
大きな写真立てが経年劣化で壊れた時に
これを機にしまおう、と写真ごと
本棚にしまっていたからでもある。

なので、その時は
「今までそばにいてくれてありがとう」
「もう十分だよ、天国で幸せになってね」
と心から彼女たちの幸せや
新しい生まれ変わりを願った。
だからおそらくは、しばらく離れていたと思う。

でも、帰ってきてくれたんだ。
彼女たちがいなくなってからも
大きな不幸や問題は起こらなかったが
家に小さな霊体が入って来てしまったりした。
私はそれをはっきりと見えるほど霊感が無い。
でも、なんとなく存在は感じて怖かったし
まだ幼い次女は、ハッキリと声を聞いた。
そんなに怖い霊ではなかったかもしれないが、
私の中途半端な優しさがそこに縛っていた。
怖くなって私は慌てて神社にお参りを重ねて
ようやく、その魂を引き取って頂けたのだ。

そういうことも、あの子達がそばに居る時は
全く無かった。
番犬が外からの侵入者を許さないように、
ずっとこの家を守って来てくれたのだろう。

夢には出てきてくれていないが、
あれからたぶん、また心配して
戻って来てくれたと感じている。
「いつまでも世話の焼ける飼い主だ。
(もしくは妹だ)」と思っているかなw

昨日、最近地震が多いな…と思いながら
東日本大震災の記事を読んでいた時に
とあるノンフィクション本の中で
「亡くなった子がおもちゃが動かして近くで見守っていることを教えてくれた!」という
エピソードを読んで、心に強く残っていた。
その夜、家族みんなで食事をしていた時に
同じ事が起きたのだ!
次女のおもちゃから突然音楽が鳴り出した。
箱の中にしっかりしまっていたおもちゃが。
もちろん家族は「なになに?おばけ?!」
と騒ぎ立てたがなんとなくその場は終わった。
でも、私1人がその後そっと二階に駆け上がる。
前回、小さな霊が入って来てしまったであろう窓に向かって強く威嚇する。入って来ちゃダメ!と。

翌朝になって、間違いに気がつく。
あー!あれは怖い霊ではなかったな。
私の愛犬たちだったんだな!と…。

本当にごめんなさい。
どうか、戻って来て。

「そばにいるよ」って教えてくれたんだよね。
私も今でもずっとずっと君たちを愛しているよ。
私はバカだし愚かだし。とても怖がりだから
また間違えたり忘れたりするかもしれないけど、
でも、この気持ちだけは変わらない。

「ずーっと、ずーっと、大好きだよ」

そして、ありがとう。
こんな私のために
ずっとそばにいてくれて
守ってくれて
どうもありがとうございます。

あなたの愛に応えられているか分からないけど
いつか、私も肉体から出ていく日が来た時には
直接、ありがとう!と言いに行きます。
あの 柔らかい背中の毛を撫でさせてね。
あの 冷たい気持ちの良い耳を触らせてね。

まだまだ心配をおかけしますが
私は今回の人生の使命を全うするまで
頑張って、生きて行きたいと思います。

これは秘密。

でも、皆にも知ってほしい。
そういこともあるんだって。
世の中は目に見えることが全てではない。
それは怖いことばかりでもないんだって。

愛は、物理的な限界を超えることもある。
愛は、歳月という限界を超えることもある。
それって、みんなの希望になり得ませんか?

少し不思議なお話でした。





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